『象られた力』

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

 これから日本のSFを代表していく作家の一人です、くらいには言ってしまっていいんじゃないでしょうか。『グラン・ヴァカンス』や『ラギット・ガール』の評判が凄いことになってる飛浩隆さんの処女短編集。収録されている作品は十年以上前のものですけれど、古さは感じようもありません。

 どれも良質なSFですけれど、特に表題作の『象られた力』からは『グラン・ヴァカンス』にも迫る「凄絶さ」を感じました。自分の理解の上限を超えてるなー、と圧倒される感覚ですね。

『グラン・ヴァカンス』にも言えることですけれど、飛さんの作品はいつも、希望に溢れた理想的な世界が繊細に描かれるところから始まります。ただし物語がある一点を越えて輝きが最大に増したとき、世界は突然負の面をさらけ出します。穢れないかに見えた登場人物たちは心の奥に隠し持っていた嫉妬や欲望を露わにし、世界を満たしていた希望は絶望にうって変わり、遂には抗いがたい凄惨な破滅が訪れます。

 特筆すべきは、最初描かれていた幸福な世界がどれだけ凄惨に蹂躙されても、その後残った血まみれの瓦礫の山が今なお繊細な美しさを保ち続けている点でしょう。悪意に染まって新生したその世界は、見ようによってはかつて以上の耽美的な魅力を放っているのかもしれません。