『昴(1)』

昴 (1) (ビッグコミックス)

 現在未完のバレエ漫画、という以上の予備知識が全くない状態で読んでいます。"バレエ"という芸術自体についてもよく知らなくて、「マリア・カラスって凄いんですよね」とかそのレベルの酷い認識から。

 「難病の弟を元気付けようとする主人公」「主人公の才能に対する友人の嫉妬と葛藤」「主人公自身のバレエへの傾倒」という三つの要素が序章のお話の軸となっています。物語はこの三つの軸が互いに均衡し、またときに一気に崩れたりしながら動かされていきます。

 この均衡によって生じる緊張感は相当なもので、登場人物だけでなく読んでいるこちらまで息が詰まるような雰囲気が髪を通して伝わってくるよう。そしてだからこそ、その均衡が崩れたときの変化もまた劇的です。

 作品のこの緊張感を生み出している源泉のひとつは、主人公の友人・真奈ちゃんの存在だと思います。彼女は主人公の恐ろしいまでの才能を感覚的に察しつつも、嫉妬心からそれを懸命に否定しようとします。

 けれど「友人」としての主人公を無視することもできない彼女は結局彼女の側に立ち、バレエという大きなきっかけを与えます。つまり彼女の中にも、ひとつの大きな葛藤があるわけです。

 主人公の才能は、おおむねこの友人の視点を通して畏怖をもって描かれます。単純に才能を礼賛するのではなく、自分を越える者に対する恐怖がそこには常に存在し、これこそが作品に大きな緊張感を与えているのだと思います。