『魔王物語物語』 - ブレイクスルーの気持ちよさ

 システム周りのお話。

 本作は自由度がかなり高いつくりになっているんですけれど、それでも攻略の効率を優先していると最善手はどうしても限られてきます。「できること」として提示される範囲の広さに比べると、実際にプレイヤーが選択するパターンはかなり狭くなってしまうという。

「攻撃特化/防御特化」「ダンジョンを一気に突っ切る/堅実にゆっくりとレベルを上げる」などといった方針によって、プレイヤーは特定のパターンに沿った選択をしていきます。そこに攻略的な「価値判断」があるために、結果的には自由であるはずのプレイヤーの行動が偏ってしまうわけですね。これは自由度を謳うゲームのジレンマかもしれません。


 システムがシステムとして完成することそれ自体を目指すという愚に陥らず、いつもちゃんとプレイヤーの気持ちよさを見据えてくれているゲームだと思いました。多人数が関わるプロジェクトだとどうしても「目の前の仕事の完成自体を目的とする」という転倒が生まれてしまいがちで、個人統制というスタイルはこういった点で強みがあると思います。


 主人公には「ネグラ」という拠点があります。多くのダンジョンはこの「ネグラ」を中心に配置されていて、ゲームを進めていくことで「ネグラ」から行ける場所はさら増えていくというモデル。「全ての道はローマに通じる」みたいな。

 「ネグラ」を中心として「自分の行ける場所」が多方向に広がっていく感覚は、ダンジョンを決まった順番に一本道に攻略していくのよりも気持ちのいいものだと思います。子供が自転車を買ってもらって行動範囲が増えるとか、そういった「自分の世界」が広がる感じに近いです。

 最初から行けるけど敵が強すぎて刃が立たないダンジョン、明らかに何かありそうだけど最初は開かない扉など。プレイヤーの好奇心や達成感を刺激してモチベーションを向上させる仕掛けがこの「ネグラ」には詰まっています。


 装備、スキルなどのパワーアップ要素の配置バランスが気持ちいいです。ひとつダンジョンを進むたびにワンランク上の装備が揃うといった形ではなく、パワーアップの機会はもう少し希少です。たとえばお店で買える防具の種類は3つしかなく、それぞれのお値段は50金、800金、7000金とけっこうなインフレ率です。

 それだけに、武器や技がワンランク上がったときの効果もはっきりしています。3ターンかかって倒していた雑魚敵を2ターンで倒せるようになるだけでも、被ダメージは大幅に下がります。一本の剣が攻略のブレイクスルーになったりするわけですね。

 地道なレベル上げで少しずつ自分を強化していくのもいいんですけれど、あるきっかけによって戦力が離散的に跳ね上がるという感覚には、それ独特の気持ちよさがあります。その辺の妙を味わいたい人にとって、本作はなかなかうってつけのゲームだと思いました。