『魔王物語物語』 - 抑制の演出の妙

 演出まわりの話。

 よくゲーム性と演出(ストーリー)のどちらを重視するか的な問答がありますけれど、ゲーム性も演出もプレイヤーに気持ちよさを与えるための手段と考えればどちらを優先するかという話ではなくなります。そうであれば両者が対立するような事態は設計自体のミスとも言えそうで、その点本作はバランスがいいなと思いました。

 多くのストーリーは「メモを読む」という形で語られます。長い物語の中のあるワンシーンを切り取ったようなストーリーテリングは必要最小限以下の情報しか提示しませんけど、だからこそ個々のシーンには際立ったインパクトがあります。これは「サガ」シリーズとかが突き詰めている手法ですね。


 かっこいいシステムを思いつくと、それを全編に渡って適応したくなるのは作り手の性というものです。ただし、それをあえて「抑制」することで効果を増す演出というものも確かにあって、本作には限定された戦闘でしか発動しないある「仕掛け」があります。

 プログラム的には、全戦闘に同じ「仕掛け」を施すことは可能だったでしょう。むしろ特別な条件を組み込まなくていい分そちらの方が楽でさえあった気がします。

 でも、戦闘のたびに同じ演出を見ていると、その演出は単なる「普通のこと」に成り下がってしまいます。毎回同じように繰り返されるフルCG表現よりも、限定状況だけで見られるドット絵*1の方が人の心を強く動かすことはあって、この作品はそういうところをうまく利用していたと思います。


 絵や音楽については、要所要所にオリジナルを用意しつつ、多くの場面ではフリー素材が使われています。フリー素材が「質」の面でオリジナルに決して劣らないことは『ひぐらしのなく頃に』が証明しましたけれど、本作も「作者を限定せず素材を選んでこれる幅の広さ」が活かされています。

 まただからこそ、ここぞというポイントで使用されるオリジナル要素の一貫性が際立ってくるという面もありました。混沌の中心に秩序を配置することで、両者がうまく制御されている感じです。

 メモを読むときに表示される、どこか不安感を煽るような絵本的イラストが好きです。なんか見覚えのある絵だなあと思ってたらアンテナに入れてた人でびっくり! まさかこんなことになってたなんて……。イメージフォルダは覗いちゃだめです!

 あと最初のボス戦がすごいインパクトでしたね。やってくれた! という感じ。神話的に見習うべきものがあると思いました。はぐれ刑事については触れぬが花だと思いました。

*1:このゲームの「仕掛け」がドット絵だということではありません念のため。