『さよならメテオ』

パンドラ Vol.2 SIDE-A

 実はだいぶ前に読んで感想まで書いてたんですけれど、書きためたメモの中に埋もれちゃって今更……ああわ。

 へんてこりーんな心象風景小説。『エレGY』が小説を専門的に書いてこなかった人の第一作としては驚くほど流暢に綴られていたのと比べると、こちらはもっと変なことをしようとして試行錯誤してる感がありました。もしかしたらそれは反対で、読者の方で間合いの取り方に迷ってしまったというところもあったかもしれません。

『エレGY』は半分ノンフィクションの私小説という体裁でしたけど、内容としてはむしろ本作の方がより個人的な表現がなされているな、と感じました。『エレGY』がドライバのインストールまでめんどう見てくれる親切設計だとすると、本作は製品機器だけ渡されてインストーラを自分で探して来なきゃいけない感じ。「新しいデバイスを認識できません」のエラーが表示されたきり先に進めなくなったりすることもあるかもです。

 のっけから主人公が「自分は一般人と違う特別な人間で凡人に気づかないことに気づいている」的なミもフタもないことを主張し、しかも物語の文脈的にもそれが決して否定されてるわけでもないあたりが、なんでかいちばん印象に残りました。この部分は読者の感情移入をわりとどぎつく阻害する表現だと思うんですけど、そういうのをあえて入れてくるのが泉さんの作家性なのかなとも思います。

 ラストに「一般人も好きよ」的エクスキューズがあるんですけど、これも微妙にバランスがとれてなくて、違和感が予定調和的に相殺されることはありません。この辺の感情はわりと持て余されてるようで、できあがりもいびつに見えます。このある意味宿痾的な感情が今後どう表現されていくのか――どこかあるべき答を見いだすのか、不安定に揺れ動き続ける在り方を表現と転化するのか――というのが、個人的に気になるところであったりします。

 よくよく見てみるとAMファンのぴくぴくしちゃう小ネタがいろいろ仕込まれてますねー、といちおう反応しておきます。やっぱりあれ、「げっきゅうし」じゃなくて「つきゆみこ」って読むんですかしら……。