『秘曲 笑傲江湖(五) 少林寺襲撃』 

秘曲 笑傲江湖〈5〉少林寺襲撃 (徳間文庫)

 もうどんだけ盛り上げれば気が済むのかと……。一章進むごとに、主人公の立ち位置がどんどん変化していくダイナミックな面白さがあります。コードギアスの二期もこんな感じだったのかな−とか想像しつつ。成り行きに任せて、一体どこまで行ってしまうのでしょうか。

 作中これだけ派手に暴れまわっていながら、彼には基本的に大きな目的がありません。彼は、目の前に次々わき上がる問題にひたすら対処しているだけです。それなのに、状況に対応しているだけでよくもまあこれだけころころお話が転がせるものだなあと。

 伏線未回収の状態でいきなり話が飛んでその後数冊もの間なんの音沙汰なし、という展開が少なからずあるので、読み始めの頃は伏線処理とかにはあまり拘らない作家さんなのかなと思ってました。が、何冊も前に出た伏線が忘れた頃に回収されるというパターンが意外に多いことに気づいて、実はちゃんと計算もしてたんだなあと驚かされます。

 ただ伏線が出てきてから回収されるまでのスパンが数冊単位と異様に長かったりするので、そういったところもまた金庸さんらしい大味さで恐れ入ります。さすが大陸小説というか、ストーリーテリングにしても伏線にしてもいちいちやることがどでかいです。

 高徳あるとされる人物が実は謀略を巡らす奸物であることも多い世界なので、一見善人面した人物が現れてもなかなか気が抜けません。そういう中で出てきた方証大師と沖虚道人の二大お人好しは当代最強クラスの名手でありながら裏表のない気の置けない人物で、この人たちと話してる間はたいそう和める時間を過ごすことができました。お坊さんかわいいよお坊さん。

 そしてお話は、"あの"魔教教主東方不敗と一戦交える展開に。一巻の頃から名前が出ていて、いつかは戦うことになるだろうことが予感されていた大敵なので、「遂に」という感慨が大きいです。これまでにも勝る激闘を期待したいところ。