五味康祐『剣法奥義』

「柳生庄で見つかった古文書に記されていた各流派の秘技について、小説風に記してみた」から始まる堂々とした大ボラに「さすが大先人」と感心しつつも、そこから続くあまりに無残、それでいて恐ろしくストイックな武辺の世界に唸らされました。あえて悲劇的、残酷に見せてやろうという外連味のないところがかえってえげつなく、やる瀬ない気持ちにさせられますね。

 掲載された八つの短編はシンプルながらもバリエーション豊か。心身を尽くして剣法の非情を歩む求道者たち、その鮮烈な姿を突き放したような淡々とした筆致で描くスタイルは通底しつつも、不思議と似た話がありません。各篇で示される剣理はそれぞれ興味を惹かれるものですが、一体どういうことなんだろうという秘奥の神髄に触れる寸前で物語がふっと幕を下ろす妙味があり、それが決して肩透かしにはならない熟練の業も感じます。このジャンルに求めるエッセンスが凝と詰まった、珠玉の一冊でした。