月村了衛『神子上典膳』

神子上典膳 (講談社文庫)

神子上典膳 (講談社文庫)

 え、月村さんの剣豪小説あるの? と飛びついたら実は機龍警察より前に書かれた小説とのことで驚きました(それもいいけど機龍警察はやく全部読もうね)。

 剣豪ものとしては時代的感性が比較的現代に近く、どちらかと言うともう少しカジュアルで普遍的な「ヒーローもの」の趣が強い作品。初期作ということもあって、構成などにこなれていない部分も感じられるのですが、それだけにかえって月村さんのヒーロー観がとても色濃く出ていたように思います。劇中の振る舞いだけをみると非の打ちどころのない「正義の味方」で、ダークヒーローと呼ぶにも潔白すぎるくらいの主人公なのですが、そういう人物を描くにあたってどうやっても贖えない罪、報われようのない寂寞とした背景を持って来ずにはいられないの、月村さんだな……と思います。

 それにしても神子上典膳、改めて本のタイトルとして見るとあまりに強い字面ですよね……。剣豪の名前、文脈と年代ボーナスで基本的に格好いいの多いと思うんですが、それ抜きにしても破格……現代伝奇で主人公張ってほしい……。