『キリサキ』田代裕彦

キリサキ (富士見ミステリー文庫)
ナヴィ!
……じゃなくて。ああ、でもナヴィさんの名前が出てくるたびに『きみのためなら死ねる』を思い出してしまう点が致命的ですね。作品がではなくて私の頭が。ごめんなさい。
さて、例のあの作品へのオマージュが散りばめられているという前知識はあったんですけど、なるほど、ここまでやりますか。もう隠すとか匂わすとかいうレベルじゃありませんね。元となった作品を既読かどうかで、本書自体を読む姿勢も少し変わるかもしれません。でももちろん、元ネタを知らないと面白さが減じるような性質の作品でもありません。
それにしても黒いお話ですね。行われている事象が非常に黒い。気分が悪くなります。でも当の「行っている人」に対しては不思議と敵意を持てないので、責める相手がいなくて気分の悪さも二倍増しです。元ネタのほうも気分の悪い作品でしたけど、胸の悪さは本書もどっこいどっこいといったところでしょうか。佐藤友哉さんとか西尾維新さんの悪意ともちょっと性質が違って、どちらかというとこれは「悪事」でしょうか。精神的な負荷がちょっと大きいのであまり頻繁には読みたくありませんけど、たまにならこういう黒さに当たってみるのも悪くありません。
ミステリーとしてやたらと評判のいい本書ですけど、たしかにSF・ファンタジー的な設定との折衷がうまくいってますね。上遠野浩平さんの事件シリーズのミステリーとしての評価が芳しくないのは、結局SF・ファンタジーとして「できること」と「できないこと」の線引きが読者にとって曖昧だから*1ということに尽きると思いますけど、本書はそのあたりの境界線が実に明確です。

*1:活字倶楽部最新号のインタビューによると本人はちゃんと線引きしてるつもりらしいですけど、どんなものでしょうね……