『電波的な彼女 〜愚か者の選択〜』

電波的な彼女 〜愚か者の選択〜 (電波的な彼女シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)
うわー。うわーわー。この人もまたえげつないことをやりますねえ。すごい悪趣味。ただ少し特殊なのは、そういった悪趣味な事件を扱うに際しての作者さんの姿勢が不思議と誠実なものに思えること。

「女の子が虐め殺されちゃったりする展開」が大好きな作家さんというのが世の中には何人かいて、片山さんも間違いなくその一人なんだろうなあとは思います。でも、彼の場合はどこかの日日日さんみたく「自分の嗜好に任せて何となく女の子虐殺してみました。テヘ」という感じがありません。

今回の「眼球えぐり魔」にしても、どこかの日日日さんなら「眼球えぐっちゃうぞー」でギャグにしてしてしまうところですし、シリアスに行くとしてもお話に華と彩りを与えるための装飾としてしか扱わないでしょう。けれど片山さんは「えぐり魔事件」を決してそういう風に扱わず、むしろ問題提起っぽい方向に話を持っていってしまいます。

本書の事件が「30人以上の幼女が連続して眼球を抉られる」というあざとい設定だと知ったときは「今回の感想の書き出しは「眼球! 眼球!」で決まりだなー」とか思っていたんですけれど、最後まで読み終えるとそういう浮ついた気分はどこかにふっ飛んでしまいました。ああ、この人は真面目にやってるんだなあと。

片山さんのこの態度は、主人公の柔沢さんの性格にダイレクトに現れていると思います。この主人公は不良な言動のわりに考えていることはとても内省的で、そのせいでいつもイライラしている人なんですけれど、そのイライラを悪意に換えて誰かに向けるということだけは絶対にしません。(たとえば「J-POPなんかをありがたがって聴いてる一般人は本当の音楽を聴いたことのない愚衆どもだ」とか、その手の思考を決してしません)

基本的には「悩める思春期」で括れる性格でありながら「他人に悪意を向けない」という点だけは徹底して守られていて、すごく好感の持てる*1キャラクターになっています。これだけ悪趣味なお話を描いているのにこれだけ気持ちいい主人公が描けるというのは、なんだか凄いことのような気がします。(まあ、胸の悪くなるような悪意の書き方も相当ですけど)

巻頭の人物紹介ページに一人だけ明らかに浮いた人物がいてすごく怪しいんですけれど、前巻の例もあるし実はこっちの方が犯人かもしれずーという迷いもあって、結果的にけっこう惑わされました。まあそこはそれ以上考えようのないことなので、ミステリー的にはホワイダニットを考えることが面白い作品でしょう。

犯人の対応があまりに杜撰だなーというのはありますけれど、まあ納得のいく真相。今回みたいなのは発想の問題なので筋道をつけた思考よりも一瞬の思い付きで解けるかどうかが決まるわけですけれど、答を聞かされてみればああなるほどなあと。伏線とかはわりと張ってあっただけに、これが気付けなかったのは悔しいなあと思いました。

あとこの人はあとがきが面白いですね。この電車ワープの真相は一体何なんですか。ものすごく気になりました。こんなところに解けない謎を仕込むなんてずるい。

*1:一巻の時点では、雨さんに対する最初の行動が最悪すぎて(あれは本当に最悪でした。片山さん何考えてるのかと)ずっと印象悪かったんですけれど、読むのに間を空けたおかげでその印象はもうなくなりました。