『蟲と眼球と白雪姫』

蟲と眼球(めだま)と白雪姫 (MF文庫J)

完結。日日日さんにとっては、最後まで書ききった初のシリーズということになりますね。

日日日さんの弱点が、ここでもやはり出てしまっていたように思います。伏線の弱さと、風呂敷の畳めなさ。終盤は神の力が云々というデウス・エクス・マキナ的展開なので、唐突さを感じさせない十分な説得力が必要だったのですが、ここまでに用意されていた伏線は満足とは言いがたいものでした。この辺まだまだ伸び代ですね。

『最弱』さんの言動は「否定するために用意された対立仮説」という感じでわざと悪し様に描かれていた感がありますが、他のメンバーの心理は上手く描写できていたように思います。この作品の登場人物は一人残らず「世の中から阻害された哀しみ」を抱く面々で、この点に関しては最初の頃からずっと一定以上の質を保てていました。

この最終巻では存命中の全てのキャラクターにちゃんとシメの機会が与えられていて、構成としては成功していたと思います。特に素晴らしかったのは、御貴さんと竜ゑさんが最後に登場するシーン。ちょっとした神懸かりとまで思える、とても綺麗な光景でした。

ちょっと意外なのは、最近の日日日さんがけっこう自覚的に「現実と重ね合わせたテーマ」の描写に挑戦していること。本書もこの間の『ピーターパン・エンドロール』も、言ってみれば日日日さん自身の成長そのものがモチーフになっていました。デビュー当時は感性と勢いで突っ走る作家という印象だったので、この内省的な変化は興味深いです。