『大いなる助走』

大いなる助走 (文春文庫)

 直木賞に落とされた腹いせにで描かれた怨念渦巻く一冊。という触れ込みで語られることが多いですけれど、彼らが登場するのは後半になってから。それまでは、同人ブンガク作家たちのどうしようもなさが嫌な感じの生々しさでねちねちと描写されていて、こちらの方も壮絶です。

 同人作家が地方の名士として扱われる、という世情は今ではちょっとピンときませんけれど、ひどい創作サークルの在り方というのは今も昔もひどいものであるなあところは通底してます。批評という名のパワーゲームとか! 若い子つかまえて手ごめにする男とか! 

 経緯を考えれば私怨まみれの小説になってしまいそうですけれど、あんまり作品の後ろにいる作者の思いが滲み出ている感じでもないのが面白いです。怨念を込めつつも、その自分の怨念まで客観視してあくまで作品を立たせるために「使っている」という感じ。筒井さんの作家としての力が、そういうところに表れている気がしました。