タロットから無限生成される物語 - イタロ・カルヴィーノ『宿命の交わる城』

宿命の交わる城 (河出文庫)
 変な小説ー。タロットカードをどんどん並べていって、そこからの連想で物語を作っていくという試みから生まれた作品集。タロット元来の意味にとらわれず、用いたカードの「絵」そのものから連想を働かしているのが面白いです。

 大塚英志さんの『物語の体操』では、カードを適当に並べて即席で物語を作る訓練というのが提案されていました。もっと遡れば、たしか星新一さんだったか誰だったかが同じような技法で短編を書かれていたことがあると聞きます。本書で行われているのは、そういった試みのひとつなのでしょう。

 ただし本書の場合、タロットは創作を行うための"技法"ではありません。ここで描かれようとしているのは、タロットの組み合わせから無数の物語が現れて来ること、それ自体に対する驚きです。大塚さんや星さんとは目的と手段の因果が逆になっているわけで、こういったところがカルヴィーノさんの着眼の面白さなのかなと思います。

 ひとつひとつのお話は説話や寓話の類に近い形で語られるので、漫然と読んでも面白くはないでしょう。やはり、この作品がどのようにして描かれたのかを意識した上での、特殊な読み方を要請されます。「この人なんでこんなこと書いたんだろう?」「どうしてこんな言葉が出て来たんだろう」とか、書いた人の頭の中を想像しながら読むなどするのが面白そうです。