『黒後家蜘蛛の会(1)』

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

 ***は大変なものを盗んでいきました! 初めてのアシモフさんです。まっとうにSFを読んどけばよかったものを、なぜあえてアシモフさんの中でも珍しいミステリーな作風の本作を手にとってしまったのかよく分かりません。森博嗣さんが100選に挙げてらっしゃったのが、印象に残ってたんだと思いますけど。

 で、読んでいる間もやはり森博嗣さんのいくつかの短編を思い出しまくりでした。会食の中でミステリーのネタを出し、それについてインテリ揃いの参加者があれこれ考えるけど結局答えは分からず、ところが最後に……という流れまでがまんまこの作品と同じで、ああこれが元ネタだったんだなあとにんまりできました。ヘンリーさんも諏訪野さんも、両人の作品の中で屈指の萌えキャラだということがよく分かりました。

 六人のインテリがああだこうだ言い合うキャラクター小説的な側面があり、またそういったキャラクター配置に相応しい広い広い知識の引き出しが読みどころなのでしょう。弁護士や暗号家や化学者が自分の仕事について専門的な話をするようなことまではあまりありませんでしたけど、とにかく懐の広さというものは味わうことができます。

 残念ながら推理の手法については、この手のミステリーの多例に漏れず予知能力ちっくなところが見あたります。探偵の結論した解答によって事件の説明はつくものの、その回答が認められるなら他の解答もあり得るのではないかという一意性の問題がクリアされてない。出題から逆算してどうやってその解答に辿り着いたのかという道筋が示されておらず、飛躍がある。みたいな。

 なぜこういう問題が起きてしまうのかというと、要は書いてる作者自身が問題の答を知っているので、問題の些末に思える部分を省略してしまうのでしょう。アシモフさんのような知の巨人でさえでこの辺をスルーしてしまってるあたり、ミステリーというジャンルでは洋の内外問わずこういうことを問題にしない考え方が根付いちゃってるのかなあと思います。そういうおおらかな側面があるからこそ、これだけ色々な作品が発表さる土台になっているとも言えるかもしれませんけど。