『秘曲 笑傲江湖(二) 幻の旋律』

秘曲 笑傲江湖〈2〉幻の旋律 (徳間文庫)

 面白い面白い言いながら読んでます。ほんの一章お話が進むだけで、主人公の置かれる状況や目下の目的、人と人の対立関係までもがどんどん流転していく様が刺激的。ストーリーテリングの操りが実に巧みです。

 ある出来事が終わりきらない内に次の事件が発生する、という感じでお話が連なっていくので、個々の出来事は突飛でありながらも全体として一本の流れを見て取ることもできます。伏線もなくいきなり新しい登場人物が現れて状況をしっちゃかめっちゃかにしていくようなことも多いんですけど、そういうところもまた"武林"という世界の破天荒さを演出するのに一役買っていると思います。

 で、ことの起こりは唐突でも、一度発生した出来事は物語に不可欠な要素として最終的には綺麗に回収されているなとも思います。伏線を張り巡らせて新しい要素に説得力を持たせるのとは逆のパターンで、一度現れた要素が全て次の展開を支えているという形。そういう方向から見ると、この作品は確かに「無駄のない構成」を持っていると言えるのだと思います。

 半分くらい他人にいいところを持って行かれていた前巻と異なり、今巻は令孤冲さん出ずっぱりでようやく主人公らしい扱いになってきた感じです。なんか物凄く強くなりそうな伏線がどんどん出てきて、でも全七巻のお話ならこのくらいのインフレ率がちょうどいいのかも、とも。ただ状況自体は加速度的に悪くなって行ってる感覚があって、これも不運が重なることでストーリーが進行するタイプのお話だなあと思いました。