『ダンシング・ヴァニティ』

ダンシング・ヴァニティ (新潮文庫)

 な、なんじゃこりゃ。

 ほとんど同じ文章の細部だけを変えながら何度も反復する、というスタイルが徹底された長編。やってることは完全に実験小説です。でも流石は昔からこういうことを繰り返してきた筒井さん、「実験小説」という言葉のイメージにそぐわない安定と洗練が感じられる作品に仕上がっています。

 実験小説って、その作品を読んだ時に感じられる一次的な面白さはひとまず置いて、「この試みが行われたこと自体に意味がある」的な方向で評価されることが多いと思います。でも『ダンシング・ヴァニティ』は、単純に読んでいて面白いのです。反復される文章の中に現れる微妙な差分には、間違い探し遊びの原始的な喜びを思い出させるようなものがあって、それ自体が刺激的です。

 筒井さんみたいな御年の人が、いまだにこういうヘンテコな小説を書いてくるのはすごいなーと思います。でも逆に、筒井さんくらいの大御所でもないと、もうこういうわけの分からない作品は出版させてもらえないのかなーとも思ったり。特異なポジションにいる人ですねえ。