『サマー・アポカリプス』

サマー・アポカリプス (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
前作の『バイバイ・エンジェル』を読んだのが二年も前だったので、設定も何もかもすっかりと忘れていたのですが、特に不都合なく読めました。なぜかシルヴァン助教授を前作からの続投キャラクターだと最後まで思い込んでいたりはしましたが……。(だめだめです)
さて、どうやらこういうのを思弁小説というらしいですね。(そもそも思弁的というのがどういう概念なのかよく知らなかったり) 思想自体は14歳の頭ではさっぱり理解できませんでしたけど、雰囲気から察するに、この静かな思想対決には圧倒されるくらいの凄みがあります。森博嗣さんが思想戦争なんて言ってましたけど、そこまで言ってもぜんぜん大げさではありません。アルビジョワ十字が軍云々とかキリスト教の異端カタリ派がどうこうとか、薀蓄にもかなりの量が割かれていて、しかもそれは物語の本質と密接に関わります。こういったやり方は京極夏彦さんを彷彿とさせますね。(というか笠井さんの方が先なわけですけど)
構成上、探偵は結末近くになるまで自分の真相を明かすことができないため、不自然に推理の出し惜しみをしてしまうことが少なくありません。本作の探偵役の矢吹駆さんもそれに輪をかけた見事な出し惜しみぶりなんですけど、彼に限ってはそこに全く違和感がありません。これは矢吹さんが寡黙な哲学探偵として徹底的に描写されているからなんでしょうけど、ここまで説得力を持たせることは並大抵ではありません。
ところで読み終わってから気づいたんですけど、これが20年前の作品とは驚きです。何も知らずに今年の新作だと紹介されても、携帯電話が出てこないことくらいしか疑問を感じなかったでしょう……。