『禁涙境事件』
some tragedies of no-tear land. 今回は「事件」の部分が複数形なだけあって、登場人物の回想というかたちで物語の舞台・禁涙境で過去に起こったいくつかの事件がオムニバスっぽく語られていきます。ミステリーとしてどうなのかは分かりませんけど、SF・ファンタジー小説としてはシリーズを追うごとに着実に面白くなってきている気がしました。上遠野さんの人気には一時ほどの勢いはありませんけど、それは作り出す作品の質が落ちたからなんかじゃなくて、それこそ単にブームが収束しただけなんだと思います。(衒学っぽい雰囲気は昔と比べて増してるので、より人を選ぶようにはなりましたけど) もともとどちらかといえば地味な作風でしたし、何かと騒がれていたときよりも今の方が落ち着いたのではないでしょうか。ところでオビで謳われてる「仮面の戦地協定士の過去がついに明かされ」云々はちょっとした過去エピソードが見られる程度なので悪しからずです。
残酷号とか凍結鳥人とか、上遠野さんはときどきものすごいネーミングセンスを発揮してくれますね。特撮方面の趣味の影響なんでしょうか? このセンスは好き嫌いが分かれそうですけど、「本人は真面目だけどはたから見るとちょっと間抜け」な感じのよく分からない味が出ています。でも禁涙境事件というタイトルは「〜事件」と型が固定されていることを考えると普通に秀逸ですね。語感はもちろん、字面もバランスがよくて素敵です。あ、あと、次回作の『残酷号事件』というタイトルを見て船上ミステリーだと思った人は本作を読んで笑ってやってください。