『ファウストvol.4』

ファウストvol4 (講談社 Mook)
はい、巷ではvol.5の感想も出尽くした感じのこの時期にvol.4ですよ。ミステリーのフロントラインとやらに読み残しがあったのでvol.5を読むついでにこちらも片付けましたという話。

廃線上のアリア』北山猛邦

えー?
文芸合宿の短編を除くとこれが実質はじめて読む北山さんなんですけど、ええと、物理トリックってそういう意味ですか。これ、半分は冗談でやってると見ていいんですよね? オチもフォローもありませんでしたけど……むー、判断に悩みます。でも本気でやってるとしたらそれはそれで、こういうことを大真面目にやれる稀有な人とも言えそうですね。
極端なトリック先行型のミステリーで、その他の部分があまりにも「そのまま」。ここまでくるとストイックな感じすら受けるんですけど、これが北山さんの普段からの作風なんでしょうか。

『ポケットに君とアメリカをつめて』浦賀和宏

またえらいものを詰め込んじゃいましたね。
浦賀さんも初読み。(そんなのばっか) ストレートな「僕たち二人に影響ないなら別に世界になんて興味ないってかむしろ滅びろ」系。「浦賀和宏は人を食ってなんぼ」とか言われているようですけど、まさかこういう意味だったとは。そのままじゃないですか。主人公の二人があまりにもアレだったもので、いちばん感情移入できたのが村長のゲンゾウさんだったのはジョジョとかには言えない秘密です。少数派で迫害される側である主人公二人と、多数派で迫害する側であるその他大勢の人たちのものの考え方に、その立場以上の違いが何も見当たらないのがなんとも。素でそういう人しか書かないのか、わざとやってるのか微妙です。「死ね! ブタ野郎!」のシーンがもっと掘り下げられてるのを読んでみたかったり。

『夜中に井戸がやってくる』舞城王太郎

フギャーイギッヒ。じゃなくて。
上の二作品が素で「世界なんて滅んじゃえ」みたいなことばかり言ってた分、余計にこの人はその先に進んでいるなーという印象が。西尾維新さんにしてもそうですけど、一度は世界に疑問を持ちながらもそこで絶望して立ち止まらずに、一周して世界を肯定する側に戻ってこれた*1人という感じがします。書かれていることもメッセージとしては恥ずかしいくらいに直接的なんですけど、はじめから疑いもせずに肯定するのとはやっぱり重みが違いますね。

*1:ガンダムSEEDなんかは、疑問が見えた時点で一周せずに無理矢理引き返しちゃったからああいうものになっちゃったんじゃないかという気がします。知りませんけど。