『灰よ、竜に告げよ されど罪人は竜と踊るII』がキてました

灰よ、竜に告げよ―されど罪人は竜と踊る〈2〉 (角川スニーカー文庫)

うひー。たいへん面白かったです。

本書には二つの軸があります。ひとつは、シリーズ主人公であるガユス・ギギナの咒式士コンビを中心としたバトルもの。戦闘描写が説明過多になってしまいがちなきらいがありますけれど、トリメチレントニトロアミンやアデノシン三燐酸など具体的な「化学用語」がこれでもかと飛び交う「咒式」は、抽象的な設定に偏りがちなこの手の異能バトルものではなかなか斬新です。

そしてもう一方の軸は、天才的な数学系咒式士にしてチェスの名手・レメディウス博士が、独裁者の支配する貧国ウルムンの国家問題に巻き込まれていくというもの。二つの軸は物語が進むに連れて次第に絡み合っていくわけですけれど、この後者の軸が非常に浅井さんらしいというか、実に悪質な内容。

独裁体制下の窮状が描かれるウルムンは「50人を生かすために49人を殺す」ことでやっと社会を維持しているようなどうしようもない国です。このウルムンが未来のために採れる最良の道はと考えてみても、結局そんなものはどこにもありません。作中で行われる数々の問題提起には、もちろん解答なんて与えられずに終わります。とにかく、いかんともしがたいやり切れなさだけを伝えてくるのです。

少し気になったのは、「高次元に住まう異形の存在」と人々から恐れられているボスモンスター「大禍つ式」が、普通に人語を操って人間の思考に沿った行動をしている点。本文中で「人智を超えた異形」であることが幾度も強調されているだけに、肝心な言動が妙に人間くさいと違和感を覚えてしまいました。まあ、擬人化した方が分かりやすい描きやすいというのはあるんですけど。

あと面白かったのはあとがきのラスト。

次巻こそは女の子まみれの萌え萌え小説にしたいです。

これはつまり、次巻はその萌え萌えな女の子たちを片っ端から飛び散らせたり叩き潰したりしてブチ殺しまくる展開になるよという宣言なわけですよね! きゃあステキ!