『王妃の離婚』

王妃の離婚 (集英社文庫)

 15世紀の末期の末期、フランス王ルイ12世は新妻を得て領土を広げるため、現妃との離婚訴訟を起こしました。被告となった王妃ジャンヌ・ド・フランスはこれに果敢に立ち向かうも、原告が王とあっては神聖な裁判も形だけのもの。かつてパリにその人ありと言われながらも失意の内に学府を去った田舎弁護士フランソワ・べトゥーラスさんは、本意なくその騒動に巻き込まれていって云々ーという。

 直木賞受賞の歴史法廷小説でありながら、これは恋愛小説としても読めてしまいますね。主人公のフランソワさんが学生時代に経験した恋愛がこの作品のもうひとつの軸になっていて、彼の人格のみならずその環境にまで大きく影響した出来事は今なお彼に煩悶を与え続けています。

 また離婚裁判というテーマからも、お話は自ずと「この時代の結婚観、男女観」を描く方向に向かっていきます。裁判と恋愛、本作にはその二つの軸が存在するといっても過言ではありません。両者が自然とひとつのものになって完成するラストは、物語の力学としても面白い展開です。

 ひねくれていたりしながらも、中心に真っ直ぐなものを持った登場人物の造型が気持ちいいです。特に「ルイ王の犬」として民衆に嫌われる近衛隊長カニンガムさんの暴力的なまでの健気さが眩しすぎ。テラモエス! テラモエス!