『エコノミカル・パレス』

エコノミカル・パレス (講談社文庫)
し……死ぬ! 死ねる! もう駄目! 死ぬ!
……死にそうになりました。うげええ。なんてリアルな、そしてみみっちい金銭感覚。周囲の如何ともしがたいしがらみや何やかんやに引きずられて、またちょっとした希望的観測に縋ってしまって、ずるずると出費のかさんでいく様子がえらく現実味を帯びています。まるで「これが○年後のあなたの姿です」とか言われているよう。

ダメ人間としての酷さは小林泰三さんの『奇憶』に及びませんけれど、本作ではそれ以上に、読者に決して人ごとと思わせないやり切れない切迫感が存在します。本当にこういうのって、自分だけがしっかりとした金銭感覚を持っていたとしてもどうしようもないんですよね。

でもいちばんの衝撃は、解説で「切実なおかしさはかなりのものだ」「読み手としては、どうしても頬をゆるめてしまう」とか評されていたことです。こんな感想、読んでる間はまったく予想もしませんでした。つまり心に余裕のある人にとって、この作品は滑稽なお話として読めてしまうらしいのです。勿論逆を返せば、本作におかしさを感じる間もなく狼狽しまくったような人間には余裕がないということで……き、きいいいぃぃぃっ!