感想:『コクリコ坂から』

 観てきました。映像作品についてはあまり語れる言葉を持たないのでさらっとした感想だけになりますが、やー、いいものでしたね。やはりというか、いかにもジブリジブリした"理想の昭和"の風景は、観ているだけで気持ちのよいものでした。いきなり冒頭から数分間にわたり、主人公の朝の生活風景が何の説明もなしに映し出されるのですが、こういうことやって退屈させないどころか鑑賞者をしっかり画面に引き込めるのがさすがジブリ。貫禄と、余裕を感じます。

 あとなにより、秘密基地みたいな文化系部室舎カルチェラタンの描写がすごく楽しい!「学園闘争」と聞いてゲバ棒振り回しながら火炎瓶投げるようなのを想像してたのですが、実際は全然そんなことはなくて、どっちかというと「僕らの七日間戦争」みたいなノリだったのですね。男子ばっかりだった秘密基地に女子生徒が乗り込んできて雰囲気が一新される展開なんてベッタベタのお約束なのですが、まあ賑やかで好きです。あと生徒会長かっこいい。

 恋愛描写は『耳をすませば』をあっさりさせた感じ。『耳をすませば』観たら死ぬような人は本作でもダメージを受けそうですが、そんな例外を除けば初々しくてよいものです。今さら「好きになった相手が実の兄妹だった」ネタでドラマを作るのはさすがにつらくて、ここだけは主人公たちの葛藤に深刻さを感じることが出来なかったのが残念。ただし作り手側もその辺は理解しているらしく、近親愛の倫理的是非とかに焦点をあてる暇を与えずとっとと話を進めてくれたのは助かりました。

 全体、観ているだけでとっても心地のよい映画でした。『ゲド戦記』でアレな評判ばかりが目立っていた吾朗さんですが、この一作でかなり評価が変わりそうです。ただ「具体的にどの部分が吾朗さんの仕事なのかナー」っというのがよく分からなかったというのもあり。強いて言うなら、文化財カルチェラタンの保護運動とか、両親や出自を巡る主人公たちの物語とか、そもそも本作自体が昭和の時代を描いていることから「古きよきものを大切にしよう」的な方向性が見えては来るのですが、それだけだとありふれた訓辞を映像作品に綺麗に落とし込んだだけになってしまうし、ぶっちゃけ「いつものジブリ」でもあるわけです。これをさらにもうひと搾りした時に何が出てくるかは、次回作以降のお楽しみということになるのでしょうか。