バハラグのヨヨ女王が悪女とか散々な言われようをされていますが

以下、スクウェアスーパーファミコン時代のシミュレーションゲームバハムートラグーン』の作品内容に関するネタばれを含みます。それにしてもぐだぐだー。時間がなかったので長文になりました。


スクウェア三大悪女」というよく分からない言葉があって、その中の一人には『バハムートラグーン』のヒロイン、ヨヨ王女の名前が挙げられています。この話題の関連で定期的に見かけるのが被告人 ヨヨというページ。これはよくあるネタで、「どうとでも取れる表現」を徹底的に悪い方に解釈し、その曲解を断定口調で書いたらこんな感じになるだろう、という見本のようなページです。こういうネタページが存在すること自体はどうとも思いませんし、遊び心は大切だとも思います。でも、ヨヨ女王を叩く人がたびたびこのページを引き合いに出すのを見ているうちに、どうもこのページの内容をそのまま鵜呑みにしている人が少なくないのではと思うようになりました。

分かる人には分かる通り、上述の裁判ページは煽りの文体で書かれています。この記述の中から煽りを取り去って事実関係だけを抽出すると、どれだけ作者の恣意が込められているかが分かるでしょう。事実関係だけ抜き出して並べれば、実は大したことは書かれていないのです。また、事実を記しているように見えて恣意的な推測を断定口調で書いただけの記述も多いです。こちらのコラムでは裁判ページと同じくヨヨ女王について色々と語られているんですけれど、その印象は大きく異なります。

現時点では入手困難な作品ですから、実際にプレイして内容を確認し直すことができないのが残念ですけれど、それでもこの裁判ページについていくつかの確実な誤りを指摘することはできます。たとえばヨヨ女王はビュウ隊長を振る結果になりましたが、優柔不断ということはあっても悪意を向けたことはありません。彼女は終止ビュウ隊長に対して申し訳なさそうにしており、その態度は一貫して変わりません。まして「この女はビュウを見るなり、汚いものを見るような発言を連発!!」という記述に関しては、一体どの台詞をそう曲解したのか判断もできません。

バハムートラグーン』はヨヨ女王の成長物語的な側面があるのですが、中でも重要で象徴的なのは、彼女のジョブがワーロックからドラグナーに昇格する際の演出です。人間的に成長することでバハムートたち神竜の心を理解したヨヨ女王は、ドラグナーにクラスアップするとともにグラフィックも専用のものに変化します。裁判ページの中ほどではこの件について「ロストバージンと共にイメチェン」というわけのわからない理由がつけられていますけれど、勿論そんなことはありません。また裁判ページのその直下の記述、「見るにみかねたビッケバッケとクルーにある物を売ってもらう」からの内容に関しては、この作者さんがゲーム内のショップに立ち寄って勝手に買っただけのものであって、作中にそういうイベントが用意されているというわけではありません。

こういった調子で、ここから先は本格的に「どうとでも取れる表現」を思い切り過剰に拡大解釈していった記述が続きます。

ちなみに、この場面ではヨヨは死ぬか生きるかって状態ですが、パルパレオスと体を交わすうちにビュウを懐かしく感じてしまい、ビュウに甘えようとすがる、ヨヨの寂しい場面です。

この辺になるともう完全に創作になるわけで、この論法なら「このときビュウは故郷の星を思い出して心の中で涙していた」でも「この瞬間、実はヨヨは宇宙人ピピによる闇日本極悪畜生闇妖怪に対する警告を受け取っていたのだが」でも何とでも書けちゃいます。(なにせ、ゲーム中で表現されているのは「この場面ではヨヨは死ぬか生きるかって状態ですが」の部分だけなのですから) けれど本作をプレイしていない読者からすれば、どこからどこまでの記述を本当のものとして信じればいいか判断はできません。(勿論そういう意味では私が今書いているこの記事にしたって同じ危険性が言えるわけで、その信頼度は私が普段書いてる日記から推し量ってもらうしかないわけですけど)

断っておくと、ヨヨ女王に対する悪評が事実無根だという風にも思いません。とりあえず何にしても主人公を振っているわけですから、それを指して嫌いと言われるのは仕方のないことでしょう。また序盤、中盤のヨヨ女王は精神的に未熟な人間として描かれています。成長物語としては必要な描写ですけれど、こういった点がまたマイナスに働いています。特に序盤の彼女は「庇護される」女の子の典型として描かれていて、ずいぶん弱気で周囲に甘えた言動もとっています。(見かねたプリーストのおばさんに頬を張られて叱られてましたけど) 積極的に我が侭を言って周囲を困らせるタイプではなく、肝心なときに決断を渋ったり怖気づいたりして周囲の足手まといになってしまうタイプと言えばイメージが掴みやすいでしょうか。あれです、『最終兵器彼女』のちせさんみたいな感じなのです。

庇護欲をそそる女の子というのは、自分の側にいる間はいいけれど、手の平を返して別の男の元へ逃げたとなると、憎しみの対象でしかなくなってしまうのかもしれません。勿論RPGで主人公が振られるという展開自体も異常なわけですから、そういう風にしてヨヨさんへの評価がまるで「炎上」みたいな形になってしまったのは仕方のないことなのかもしれません。この裁判ページに限らずとも、2chの過去のログなどを見てみるとそういった雰囲気が目立ちます。本作は今ではプレイすることも困難な古い作品ですし、うろ覚えだった記憶が他人の言葉の影響で悪い方に修正されてしまうこともあるでしょう。ヨヨさんが「悪女」と呼ばれるようになった件についても、初プレイの時点で彼女を「悪女」と認識したのではなく、なんとなく話の流れの中で誰かが「悪女」と呼んで(または先に「三大悪女」の話があって、誰かがそこにヨヨ女王を入れようと言い出して)、そこからなし崩し的にこのレッテルが定着してしまったんじゃないかなあという風に思います。

問題は、こうやってもっともらしく「三大悪女」なんてものを掲げてるいと、未プレイの人に対しても「こいつらはどんな悪行をやらかしたんだろう」と大きなマイナスイメージを抱かせてしまうことです。誰がどのキャラクターをどう嫌おうとも他人が口出しできることではありませんけれど、プレイしたこともない人に悪い先入観を植え付けるのはまた別の問題です。特にあの裁判ページは、事前知識なしで覗いてしまったりすれば間違いなくよくない勘違いを植えつけてしまうでしょう。結果的にはヨヨ女王の言動が原因となっていつの間にか付いてしまった「悪女」というレッテルは、しかしヨヨ女王の実際の言動をイメージさせるものからはあまりにもかけ離れているのです。