『スティール・ボール・ラン(11)』
まず最初に言っておくジョニィ
おまえはこれから「できるわけがない」というセリフを……四回だけ言っていい
冒頭のこの言葉からして「荒木飛呂彦はこれからどこに向かおうというのか」的臭いがぷんぷんします。ここから「ジャイロの回転の秘密の講釈」までの流れは本当に神懸かっていて、そろそろ五十代に差し掛かる作家がここまでパワー溢れる作品を描き続けていることに驚かずにいられません。
強引な超理論に無理矢理説得力を持たせる力技は、たしかに荒木さんのお得意な手法です。でもそれにしても、凄味で読者の理性をねじ伏せると言わんばかりの荒木さんのこの若々しさはどうですか。MMRも歯が立ちません。キバヤシさん涙目。
その場その場があまりに凄いので見過ごされがちなんですけれど、それぞれの登場人物がここまで謎を背負っているのも荒木さんの作品ではほとんど初めてのことのように思います。今までも騙し討ちのために身分を偽る敵くらいは出てきましたけど、その場合もたいてい数話の内に本性が判明していたと思いますし。
本シリーズでは、どの登場人物にしても「その人はどういう立ち位置なのか」というのがギリギリまで隠されています。今巻はその試みがはっきりと前面に出た回で、今後荒木さんの描くサスペンス的展開が見れるのかもとこっそり期待します。