『水滸伝(十六) 馳驟の章』- 史文恭は大変なものを盗んでいきました

水滸伝 16 馳驟の章 (集英社文庫 き 3-59)

 漢たちの夢です。みたいな。

 次の巻でラスボス童貫さんと本格的にぶつかりあうことになるので、事実上最後の小休止となる一冊。小休止と言いつつも、裏でやってることは調略暗殺の大合戦。道士妖怪の類が跋扈する伝奇小説でも、ここまでの凄味はなかなか出せるものではありません。怖いです。

 梁山泊はここに来てようやく、青蓮寺の深い所に一撃を与えました。もっと早い段階でこの攻撃が成功していれば、戦いの勝敗はひっくり返ったかもしれません。けれど遂にラスボスまで引っ張り出してしまった今、既に堰を切られてしまった流れは止めようがありません。完結まで残すところ三冊というのが信じられないんですけど、もうこのままラストまで流れ落ちていくのでしょう。

 一度死域に入って以来、燕青さんの存在感がどんどん増していっていますね。個人としてのトータルな強さは、史進さんや林冲さんをも凌がんばかり。武器を持てば「力」の史進さん林冲さんが勝るでしょうけど、燕青さんはそもそも相手に武器を使わせない「技」を心得ていそうです。燕青さんと盧俊義さんの関係は、洪清さんと袁明さんと相似のような関係になっていて、両者が対峙するシーンは実に心憎いものでした。

 梁山泊好漢百八星のうち女性はたったの三人ですけど、この三人を見てると北方さんが「強い女性」をどのように捉えているのかよく分かります。このシリーズでは男性と女性の描かれ方の傾向に大きな違いがあるように見えて、どうしてもその差異に注目してしまいます。何かと不遇に陥りがちな女性陣の中で、戦いの中で死んでいけそうな扈三娘さんや顧大嫂さんはよい扱いなのかもしれません。