予想通りのひどさがひどい - 清涼院流水『彩紋家事件I 奇術が来りて幕を開く』

彩紋家事件 (1) 奇術が来りて幕を開く (講談社文庫)

 ぎゃーひどい! コズミック上巻的ひどさが今ここに! デビュー10年を過ぎた今でも平気でこういうことやってくれる流水さんに、むしろ安心すら覚えます!

 三分冊第一巻の本書は、ミステリーとしての事件や謎解きそっちのけで、えんえん手品サーカスのショーの模様が描かれていくという内容です。分量として、300ページ中の実に200ページ以上がショーの上演描写に費やされているます。それも場面転換もなく、200ページぶっ続けで。「キャラクターがショーを鑑賞する様」を描くのですらなく、本当に第三者の視点からショーの光景だけを描くのです。な、なんじゃこりあ。

 いちおう十九ヶ月連続で発生する彩紋家事件というのがお話のテーマで、これについては冒頭100ページほどの間に触れられてはいます。でも残りの200ページはずっと手品ショー。次巻以降の展開に向けてのラストの引きも全くありません。もしこの本で始めて流水さんを読むなんて人がいたら、続き読まない率は一体どれほどに上るのやら。この人は本当に無茶苦茶をやるなあと思いました。

 流水さんのことだから、今巻で描写された手品のひとつひとつが今後登場するトリックのひとつひとつに密接に関わっているのかなと思いはします。でもコズミック前半の個々の事件の描写にはほとんど意味がなかったみたいな例もあって、それもまた流水さんらしいとも思うんですけど。

 どっちにしても本作は、「本編を楽しむための準備としてまずはこれに目を通してね」って設定資料集をまるまる一冊読ませるような構成になっています。それで最終的に面白い作品になるならどんな読ませ方してもらっても全然いいと思うんですけど、実際商業としてこういうやり方が通ってしまうというは、流水さんにある意味での「過去の実績」があるからということになるのでしょう。なんとまあ、得な前例を作ったものだと思います。得?