第1話「魔法少女きゆら」 Bパート(シーン2)

 シーン1の続き。

「説明だけしてしまう」

 真っ暗な空洞に、私と諸星さんだけがいる。この空洞は……今日の昼間、諸星さんの瞳の中に見た空洞だ。その中に、今は私自身が吸い込まれている。

「自分の心の中でローカルに思い描いた世界を、あなたは客観世界に反映させることができる。それが魔法。私は、魔法によって更新された現象を、ある程度まで差し戻すことができる。これが反魔法」

 諸星さんは淡々と喋っている。そこにはやはり、私が窺い知れるような物語は何ひとつない。けれど……。

「委員会は私の反魔法が邪魔だから、時々こうやって襲撃をかけてくる。あなたは体よく騙された。あなたが想像する都合のいい"諸星きゆら"像で、本物の私を上書きしようとした。あなたがしようとしていたのは、つまりそういうこと」

 諸星さんは怒っている。彼女自身の空洞に落とされた今、私にもそれが分かった。私が諸星さんの中にある"物語"を勝手に解釈して、勝手に上書きしようとしたから、諸星さんは怒っている。けれど、その怒りは……多分私にだけ向けられているわけではない。諸星さんは、これまでもずっとそういうものを見続け、晒されてきたはずだから。

「でも……」

 そんな諸星さんの怒りを前にして、私はそれでも言わずにはいられなかった。

「諸星さんは、お弁当を受け取ってくれたよ。お弁当を受け取って、ありがとうって言ってくれたよ」

「そうだよ」

 諸星さんは静かに言う。私に怒りをぶつけても仕方ないから、辛抱強く静かに言う。

「あなたはお弁当をくれた。お弁当をくれたから、ありがとうとお礼を言った」

「そんな……」

 私は諸星さんに、そんなことを言ってほしくなかった。お弁当を受け取ってくれたその瞬間から、私たちは友達になれたと思いたかった。

「それだけだよ」

 諸星さんは、私の願いを……私が一方的に作り上げた物語を、否定する。

「それだけだったの」

<prev main next>