ザ・伝奇漫画 - 諸星大二郎『暗黒神話』『孔子暗黒伝』『無面目・太公望伝』

 前々から興味はありつつ、今ひとつきっかけがなくて読んでいなかった作家さん。先日封神演義関係の連続ツイートをしていた時にezoryさんに薦められて、いい機会と思いまとめて買いしてきました。やー、面白かったです。もともと高橋克彦さんの伝奇SF*1とか大好きだったので、土地や文化を隔てた様々な神話をひとつのキーワードに集約していく諸星さんの伝奇的豪腕はたいへん好みでした。

暗黒神話

暗黒神話 (集英社文庫(コミック版))

 諏訪、出雲、クマソといった神話の地を飛び回り、実在の遺跡や伝説を辿りながら古代の秘密に近づいていく、非常に伝奇らしい伝奇。基本的に日本神話がベースですが、インド由来のアートマンやらブラフマンやらといった他領域のキーワードを容赦なくぶち込んでくるところがいかにも伝奇です。最後に宇宙に飛ぶとことかも……。

 なお、読んでる間はずっとこの東方MADが頭をちらついてました。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8797644

孔子暗黒伝』

孔子暗黒伝 (集英社文庫―コミック版)

 高橋克彦さんの『竜の柩』なんかもそうでしたが、現代から過去の秘密を振り返る作品を描いたあとは、過去そのものを舞台にした話を描きたくなるのが伝記作家の性なのでしょうか。孔子の時代を舞台とし、古代インドから日本まで縦横に駆け巡ることで、ますますスケールの大きな話になっています。孔子老子仏陀、さらにモリヤやらミジャグジやら聞き覚えのある言葉が大胆に絡まりつつ、最後にはやっぱり宇宙へ……。やってることは『暗黒神話』の延長なのですが、ちょっと規格外に突き抜けた凄さを感じました。

『無面目』

無面目・太公望伝 (潮漫画文庫)
 目鼻耳口が存在せず、外界との交流一切なくして思索に耽る混沌(無面目)に顔を与えたら死んじゃった、という有名な話がモチーフ。この説話を「神が人間の心を得て愛や欲望や恐怖を知る話」として再解釈した諸星さんの発想はほんとうに凄いと思います。神のごとき存在が人の心を知る、というのはよくあるテーマですが、その描き方が見事です。史実を下敷きとした陰謀物語としても面白く、ここに朝鮮妖術が出てきたらたぶん荒山徹世界。三冊読んだ中ではいちばん好きなお話でした。

太公望伝』

 太公望渭水で文王という「大物」を釣り上げる以前、歴史的によくわかってない時代に焦点を当てたお話。これまでの作品とは打って変わり、歴史の裏に隠された神秘を読み解くような伝奇的趣向はありません*2。本作の太公望は若い頃の神秘体験を通じてひたすら自分を見つめる旅を続けているだけで、その興味は外ではなく自分の内面世界に向いています。それなのに作品の持つ雰囲気が他の作品とほとんど変わらないのは、根本的にどの作品も自分のルーツ探しとか真理の探究とかを物語駆動の動機に据えているからなのでしょうか。

*1:東洋から西洋までの神話をゴリゴリ繋げ、全部UFOとか宇宙人の話に持って行ったり。

*2:太公望八卦にハマって実演したりはしていますが、各地に残る遺跡が実は古代人の超科学施設だったみたいなのと比べれば……。