この漫画をBLファンに独り占めさせるのは勿体ない! - ヤマシタトモコ『MO'SOME STING』

MO’SOME STING (ゼロコミックス)

 私もそろそろBL漫画読むでー……って思って入門的な心づもりでヤマシタさんの漫画を読み始めたわけですが、なんかもう入門がどうって話関係なしに、単純にこの人の漫画が凄く面白い。本作をファンだけに独り占めさせるのは惜しいので、拒否感を持たずみんなで読むといいと思います。

 ヤクザに命を狙われて逃走中のヒロインを、次々集まった野郎どもが身を張って守……守? なんか逆に、無力な女子高生がヤクザとか悪徳保険屋に片っ端から喝入れてるんですけどーというお話。

ヒロイン

 実際、ヒロインは捕まったら即アレという極めてやばい状態に陥っていて、トイレの中でガタガタ震えたりしてるんですが、そうやって泣きながらもヤクザぶん殴りてええ〜と拳をわなわな握りしめたりもします。命を脅かされる恐怖をしっかり感じつつも、その恐怖に正面から相対しようとする意志の力の真摯なこと。単に恐怖を感じていないだけのキャラクターでは、ここまでの意志は描けないでしょう。

 ヤクザの実際的な暴力を前にして、無力な「言葉」でしかない憲法13条*1を必死こいて叫ぶ、というきわめて印象的なシーンがあります。これは逃避的な幻想に縋っているわけではなく、暴力に立ち向かう信念の象徴としての憲法を口にすることで必死に勇気を呼び起こそうとしている、という風な描写になっていて、物凄い芯の強さを感じるのです。かっこいいです。

野郎ども

 作者自身が「萌えキャラ漫画」と言ってるので、BL定番キャラを揃えたのだと言われると、へーそうなんかーと思います。ヘテロ・ゲイ・バイと一通り揃えつつ片思いばっかり。なおかつヒロインに対する恋愛感情を持ってる人はいなくて、彼女はあくまで「お姫様」状態と、なかなか珍しい布陣になっています。年齢的には、ヒロイン以外はのきなみ30〜40歳くらいで、全員ことごとくおっさんです。(みんなスマートで、ぜんぜんおっさ臭さは感じないですけどね)

 キャラクターとしては、外見がメガネオタクな草食系かつ脱いだら細マッチョの真性ドS変態ヤクザ、とういステータスの王狐文(30)が今まで見たことのないチョイスで面白かったです。言動的には、せっかく小ずるく要領よくのうのうと生きてきたのに条件反射的にヒロイン庇っちゃって「やっちまったー」とか後悔してる保険屋の人がこれも凄く良くって、BL的なキャラの楽しみ方というのはこういうもんかー、と実感できたところ。なかなかよいもんであるなあと思わされたのでした。まる。

*1:生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利に〜 というあれ。