『All You Need is Kill』

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)
愛と勇気とバトルアクス。いろいろなところで誉められていたので少し期待して読みはじめたのですが、それでもなお期待以上の内容。斧ひとつでアークデーモン100匹と闘ったことのある私にとって、とても共感のできる作品でした。軍隊と宇宙人がどんどんぱちぱち殺し合いをするというお話ですが、中身はかなり正統派の青春小説です。本作は人がたくさん死んでいくので『さいたまチェーンソー少女』に近いという意見が多いようですけど、お話の根本の部分ではむしろ『よくわかる現代魔法』シリーズと同じ流れを汲んでいる気がします。『さいたまチェーンソー少女』はどこからどう見ても文句のつけようのない堂々としたセカイ系でしたけど、今回はセカイ系に十分なりえる題材を用いつつもそれとはまったく反対の方向にお話が進んでいきます。
とにかく、ループの中で成長していく主人公がとてもうまく描けています。覚悟を決めたあとの主人公の意志の強さといったら、本当に格好いいことこの上ありません。私は萌えというものがよく分からないので『よくわかる現代魔法』の女の子にはあまり思うところがなかったのですが、今回はあまり定形的な萌えに頼っていなくて、リタさんをはじめときどき登場する女性も魅力的に感じられました。軍隊の描写についてはどうしても秋山瑞人さんの『E.G.コンバット』を思い出してしまいますが、これは、ええと……偉大なる先人というかなんというか、そういうことにしておきましょう。あと、あれをハッピーエンドと呼べるかどうかにはかなりの個人差があるでしょう……ほろ苦いのは本当ですけど。

ところでループの際に身体的な鍛錬が持ちこされないので、これではいつまでたっても強くならないのではないかと思う人がいるかもしれません。でも実は、武道をたしなんだことのある方なら分かると思いますが、筋肉がどれだけついているかということなんて戦闘ではほとんど些事なのです。実戦で生き残るために必要なのは経験によって頭の中に構築される行動のシステムと即座の決断力、そしてこれを有効にするための反射速度です。もちろん思いどおりの動きをするための最低限の筋力は必要でけど、それよりも片足を一歩踏み出すときに重心移動をどれだけスムーズに行えるかの方がよっぽどよっぽど大切だったりします。(まあ、反射には神経細胞の物理的なネットワークが必要だったりすると思うので、あまりつっこみすぎるのも何ですけど……)