『雪道』

孤独について
このゲームでは孤独システムを採用しています。
貴女は降り積もる雪の中を、たった一人で歩いています。道連れはおりません。貴女が倒れても、誰も助けてくれません。

アンディー・メンテと並ぶフリーゲーム界の二台双璧*1ステッパーズ・ストップはポーンさんの新作RPG『159人の願いと幻想〜フィラデルフィア演義』を作った人といえば分かる人もいるかもしれません。
ここのログを見ても分かる通り、ポーンさんは"RPGRPGであることの意味"を極限まで切り詰めて考えている方です。その営みのひとつの答えとして遂に公開されたのが本作です。基本パラメータはHPと攻撃力と防御力のみ。五秒で終了する戦闘。限られた行動回数。魔法は進行に非不可欠なオプションであり、成長は喪失の代償として存在します。ストイックに抽象化されたこの作品は、街のゲーム屋さんで目にすることの出来るRPGとは似つかないものであるかもしれません。けれど本作をプレイした人は、これが紛れもないRPG"そのもの"であると確信することでしょう。
ところで本作のポーンさんとアンディー・メンテのジスカルドさんは互いに強く影響を受け合っているのだと思いますけど、その作品の傾向は正反対ですね。ジスカルドさんはパラメータやアイテム、技やシステムなどの様々な要素を限りなく増大させていく混沌志向なのに対し、ポーンさんは過剰な要素を排除してどんどんシステムをシンプルにしていく秩序志向です。たとえば本作のマニュアルで、ポーンさんは攻撃力に関して以下のように説明しています。

攻撃力は、その細腕に宿る筋力や瞬発力、弱点を的確に攻める勘など、敵を損傷するために必要な性能群を抽象したものです。

一般的なゲームでは"攻撃力"という言葉はせいぜい腕力や武器性能と同程度の意味で使われますけど、ポーンさんはこのパラメータを攻撃に関するあらゆる要素を統合した概念として定義しています。この統合という発想は、現実を抽象化したものとして表現される種のゲームのスタートラインである気がします。

*1:私の中ではそういうことになってます。