『リリカル・ミステリー 春待ちの姫君たち』

春待ちの姫君たち―リリカル・ミステリー (コバルト文庫)
『白い花の舞い散る時間』で大いにはっちゃけた友桐夏さんの、デビュー後初の新作。

前作のアレは何度も使えそうにないネタだったので「最初一回だけの奇跡だったらどうしよう」という思いもないではありませんでしたけど、余計な心配でした。前作はインパクトが先行しちゃいましたけど、基本的には基礎能力と経験の下地が既にしっかり存在する人なのだと思います。

多少オカルト要素も混じってましたけど、前作とは違った意味でちゃんと「リリカル・ミステリー」していたことには驚きました。お話の展開がミステリーとして普通に素晴らしいです。物語が読者の興味を惹くには「事件を捜査して真相を暴く」とか「魔王を倒して世界を救う」といった基本的な軸が必要なわけですけど、本作ではこの軸がひとつの方向に固定されていません。展開が進むにつれて、滑らかに動きながらどんどん別の方向に向いていくのです。ここでは本来なら大オチ級の真相さえ予想外に早いタイミングであっさりと披露され、読者が驚いている間に物語自体はどんどん先へと進んでいってしまいます。

もちろん二度ネタは使われていないので、前作と同じような例のアレを期待している人にとっては肩透かしかもしれません。けれど、アレそのものではないにせよ、そういった空気感はむしろより満遍なく、全編に広がっていました。ええ、もう、読みながら何度叫びを上げたことか! ていうか悶絶しましたよ! だって連中、心の底の無意識がそれだけはやめて……と祈っていた展開に、ピンポイントで平然と突入しやがるんですもの! まあ、たしかに、どう見てもリリカルです。本当にありがとうございました。