『蒼林堂古書店へようこそ』

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)

 白っ! 乾くるみさんの作品にはどれもこれも押し並べて"黒い"という印象があったので、今回みたいに穏やかな話が続くと逆に勘ぐってしまうのですが、本作に限っては最後までその白さを徹底してくれた模様。読み終わって特に悪い仕掛けもなさそうだったのでひと安心、というのも妙な感想ですが。最終話なんかは特にストレートな"いい話"なのですが、肝心なところで泣かせ演出に持って行かず妙に理詰めの話を展開してオチにしてしまうあたり、逆に微笑ましくも感じました。

 第1話でいきなり「読者に知りようのない後出し手掛かり」で事件を解決し、その後も「これはあくまで類推だから本当の真相は分からないけど」っと断った上で謎解きするなど、あえてパズル的な趣向を外した出題が多いのが面白いです。実際のところ、雑談の席で「日常の謎」が話題に上ったとしても、その場でことの真相を"確認"できるのはレアケースでしょう。それでも、謎についての不確かな推理をああだこうだ戦わせるだけでも、十分楽しいひとときにはなるはずです。当たった外れたよりも、その"ひととき"の感覚を掬い上げ、あるいはマニアな人々が日常の謎を肴に談笑する雰囲気そのものを眺めて楽しむのがこの作品なのだと、序盤からうまいこと方向性が提示されていたのかなと思います。

 総じてマニアックなミステリーネタが話題となっていて、私なんかは全く着いていけないのですが、マニア連中が和気藹々と騒いでる風景を横で眺めているだけでも、そこそこ楽しい気分になれます。各話ごとに付される作品案内は完全に初読者向けの内容になっているので、未読だからといって「置いていかれている」感もあまりなく。ミステリーに対する興味自体がまるでない、ということがなければ、そのマニアックさの割には共感しやすい作品なのかなと思います。