『永遠の戦士エルリック(2) この世の彼方の海』

この世の彼方の海―永遠の戦士エルリック〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

アリオッホアリオッホ。(あくまでアリオッホと言い張る)

新装版「エルリック・サーガ」第二巻。やはり、主人公である放浪の皇子エルリックさんがとにかく魅力的。弱肉強食主義の大国メルニボネの皇子でありながら、その国柄に似つかわしくない内省的な精神と人間性を持つエルリックさん。ことの成り行きで黒の魔剣ストームブリンガーを手にした彼は、本人の望むと望まざるとに関わらず破滅の道を歩んでいきます。

そういった破滅的な運命に抵抗し、エルリック皇子は邪悪な選択肢を避けて善き道を採ろうとします。そういった選択が残酷な運命に抗う術となるなら救いにもなるんですけど、本作ではそうはなりません。皇子が良かれと思って選んだ道は、大抵の場合彼をさらに過酷な運命へと追い込みます。そしてその結果、彼ばかりではなく彼の信頼する周りの人々までもが、破滅の流れに巻き込まれてしまうのです。

竜が炎ではなく可燃性の毒液を吐いたり、上位存在との契約によってのみ発現する魔術など、王道から一歩脇にずれたファンタジー世界も魅力的。上位世界における「法」の勢力と「混沌」の勢力が常に対立しながら均衡を保っているというバックグラウンドや、それにまつわる多元宇宙の世界観など、50年近く前の作品であるにもかかわらず古さを感じさせません。現実の技術発展が作品自体のリアリティにまで影響してしまうSFと異なり、この手のファンタジーは年月を経ても色褪せることがありませんね。