『アインシュタイン交点』

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)

人類がいなくなった地球で新たな社会を形成している、人類ならざる人々のお話。

実に意味不明かつ独特な雰囲気。奇形者が非常に多くドラゴンと呼ばれる大トカゲが飼いならされたこの社会では、今の私たち人類の営みもまた「遠い昔の神話」の物語として語られます。描かれる光景のひとつひとつがとても不思議で、まさに異世界を見ているようでした。

雰囲気がアンディー・メンテのミサに似てると言われて読んでみたんですけれど、なるほどたしかに通じるところがあります。これらの作品では何やってるのか分からない光景がえんえんと繰り広げられるですけれど、そういった雰囲気が不思議ととても印象的なのです。初読時よりも再読時、再読時よりも再々読時の方が面白くなるという、噛めば噛むほど味の出るスルメみたいな作品です。

アンディー・メンテのゲームはたいがい意味不明な作品群ですが、意味不明さにかけてはこの『アインシュタイン交点』も負けていません。文章自体は平易で読みやすいのに、描かれている事象が特異すぎて何言ってるかちっとも分からないのです。ていうか冒頭からいきなりフィネガンズ・ウェイクが引用されていて、挫けそうになりましたとも。

しかもこの作品は単に意味不明なだけではなく、ひとつの表現について二重三重のメタファーを織り込みまくったフカヨマビリティ溢れまくる作品なのだそうです。私は普通にさらっと読んでしまいましたけど、とても一読では読み尽くせないような深すぎる作品世界がその底にあるのだと、訳者の解説では説明されています。その難解さはジーン・ウルフさんの著作にも似ていますけれど、より抽象的なだけにますます厄介そうな相手だなあと思いました。