『ふたり。 新風舎文庫大賞短編アンソロジー』

ふたり。―新風舎文庫大賞短編アンソロジー

新風舎大賞作家の短編アンソロジー集。テーマは「ふたり」。日日日さん以外は初読でした。先頭に有名作家の日日日さん、中盤にはデビュー間もない新人を配置し、最後はキャリアのある堅実な作家で締めるという構成。

『夜汽車の骸骨』日日日

死者を運ぶ夜汽車の話。幻想小説的な方向性もある作品ですが、手癖で結局ライトノベルっぽくなっちゃったり、色々な方向にベクトルが分散していてまとまりがない印象。なまじ扱える範囲が広いだけに、色々やろうとして焦点を絞りきれなくなってしまった印象があります。でも「日日日さんっぽい」雰囲気は相変わらず感じられて良。良?

『オレンジリング』岩月杏祐美

数日前、主人公に一方的に別れを宣言してきた恋人。けれどその恋人氏は、直後に起こしたバイク事故で一週間分の記憶を失ってしまいました。振ったことなんて覚えてない、理由も見当が付かないと言い張る恋人氏に対して、私たちはもう別れたんだもんと拗ねてしまう主人公。

記憶喪失というギミックを利用した擬似的な時間SF的状況設定が面白い作品です。基本的には恋人二人が言っても仕方ないことをああだこうだと延々こね繰り回し続けるコミカルなお話。おあとがよろしいようで。

『みにくいおんなのこ』北沢志貴

性格が悪いから嫌われているのに、顔が悪いから嫌われてるんだと思い込んでしまっている女性のお話。彼女がそういう思い込みに至った経緯を幼少時の具体的エピソードから丁寧に描いていくのはいいんですけど、「このトラウマのせいでこういう性格になりました」というのが一対一に対応しすぎていて、逆に違和感を覚えてしまいました。

中盤から終盤にかけての超展開に目が行きますけど、いちばん唐突に思ったのは主人公のラストの心変わりでしょうか。主人公がその結論に至る道理がないというか、物語を終わらせるために無理矢理そう呟かされたような印象が残りました。

『手紙と花火と少年の夏』小早川恵美

び、びびび、美少年どうしのうつくしい友情! 友情っていうか、あ(検閲

さすが年季があるためか、ここまでの作品では頭ひとつ飛びぬけて上手かったです。最初はほんとうにさりげなく。読者すら気付かないうちに、しかもごくごく自然にいい感じになってなっている二人の関係。このじんわり感が見事でした。そりゃ萌えます。砕けすぎた若者言葉に慣れるのに少し時間が必要でしたけど、描いているものを考えればこれこそが「自然」なのだと思います。

『マニキュア』松村比呂美

「上手さ」の面では、最後に来たこの作品がいちばんだったと思います。日本推理作家協会の名は伊達じゃないですね。短編ミステリーはネタばれが怖いので多くを語れませんが、一冊の本の締めに相応しい手堅さでした。