『柔かい月』

柔かい月 (河出文庫)

 なんかもう限界突破。私たちが「常識」として思考を停止させている部分をあえて掘り下げ、ありえないものとありえないものを関連付けさせて語るその御技。

 だって掌編ひとつを丸々使った細胞の文学的描写とかですよ。しかも細胞視点。それで細胞の目を通して何が描かれているかというと実は「時間を越えた愛の物語」だったりして、読者の容量はもう早くもリミットブレイクです。ぴろぴろぴろぴろ。

 ここまで一行一行をじっくり読まないと意味が理解できない文章を読んだのは初めてです。本当に、流し読めるような箇所がぜんぜん見当たりません。ひとつひとつの言葉がここまで重要な意味を持っているのは、私たちの持つ前提知識が通用しない世界を描いているからなのでしょう。

 ただし、書かれている内容自体はたいへん筋道が通っています。つまり一文ずつちゃんと意味を取りながら読んでいけば十分読解できる作品でもあって、その論理の線形っぷりは凄いです。この人の作品をたくさん読み込めば、嫌でも文章読解力がついて現代国語の成績が上がるじゃないかなーと思いました。国語の教材に是非。