『狼と香辛料II』

狼と香辛料 (2) (電撃文庫)

 これまた良作。友桐夏さんがいなければ、ライトノベル界隈ではここ数年で最高の新人になっていたことでしょう。

 ロレンスさんとホロさんの会話の駆け引きが相変わらず秀逸です。旅の道連れとして、男女のパートナーとして、いかに自分が主導権を握って相手の優位に立つかという水面下の戦いは、本書のメインストーリーである「商談による騙し合い」と同根のものなんだと思います。この辺のパワーゲームはライトノベルというよりも少女漫画的で、日高万里さんなんかの作品を読んでるときとちょっと似た感覚を味わえます。

 言葉にこそ出さないにしても、「恋愛的な関係にある」ことに関して主人公の二人は自覚的です。「互いに惹かれ合いつつもそれが恋愛感情であることには気付かない、物語や雰囲気の都合からあえて"気付いていない"ものとして描写される」というパターンがライトノベルには多いんですけれど、この作品はそういう風にはなりません。

「二十代半ばの商人」と「数百歳の賢狼」ということで、その辺の機微は二人の年齢による年の功ということなのでしょう。また支倉さん自身の"登場人物の視点が常に読者より一歩先んじている"という作劇上の特徴も理由のひとつに挙げられると思います。"読者は気付いているけれど登場人物はまだ気付いていない"というお約束な状況が、彼の作品からはそもそもあんまり見られないんですよね。

 作中、破産の恐怖について描いた箇所があまりに生々しくて、なんか色々身につまされました。キャラクター小説としてホロさんの人気がやたらと高いこのシリーズですけれど、ライトノベルの中では群を抜いて地に足の着いた、現実的な作品でもあるんだなあと思います。