最終美神戦役と書いてアフロディトゲドンと読ませる野間梓『兇天使』

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

 また変な小説を読んでしまいましたのだ。織天使セラフィ、美神アフロディト、麒麟=悪竜ジラフ。そんな世界観を越えた世界中の神々の全面戦争の危機を描くという、自由すぎるお話です。最終美神戦役と書いてアフロディトゲドンと読ませるセンスが凄いです。

 さらに並行して、シェイクスピアの『ハムレット』に濃密な時代情勢的背景を加え、陰謀史観とBL論法で再構成したネオハムレットが描かれます。ホレイシォさん総攻め。ハムレット王子もクローディアス王も皆まとめてァツーィなのです。表出するお話の筋は原典とそう変わりないながら、その裏に蠢く人々の行動原理は驚くべき解釈がなされています。

 設定的な面だけをみれば、どこの女神転生かという荒唐無稽さ。けれど、これでもかと語られる時代情勢の綿密な学術的解説と、徹底的に耽美を貫いた文体が、作品世界に恐るべき品格を与えています。こういうものを読んでいると、なんかもう人間の性別とかどうでもよくなってきます。

 神々の陰謀と人間たちの陰謀が結実するラスト、これが結局なんだったのかというとよく分かりません。ただ自分は何かすごいものを読んだのだろう、という感覚が残っています。既存の神話や物語を改変して紡ぎ合わせ、自分の物語の一部とするという姿勢は、「ゆらぎの神話」の姿勢と変わるところはないでしょう。神話のための推薦図書の一冊推しておきたいです。