『エルシャダイ原作小説』

エルシャダイ原作小説

エルシャダイ原作小説

 このまえゲームを再プレイした流れで、つい衝動買いしてしまった原作小説。原作と言いつつゲームより後で執筆されてるっぽいんですが、原作とは……?(ツッコミ待ちなのかもしれない)

 職業小説家ではない人の書いた小説、ということでその辺は差し引いて読みましたが、エルシャダイの小説としては十二分以上に楽しめました。小説文章としてのこなれなさに加え、「神の視点の一人称」でしゃべくりまくる緊張感のないルシフェルといつも真顔の主人公イーノックの視点がズレてるのもあって、時制や視点が乱れたかなり不思議な文体になっています。なんだあれは! って緊張感が高まってるシーンで「ちなみにイーノックは知らないだろうがあれはナントカのナントカで……」って悠長な地の文入れてきたりとか。それが悪いわけではなくて、ゲームでも感じた人を食ったような空気感がうまく再現されてたようにも思います。独自の世界はしっかり持ってる人なので、描き出される光景はやはり面白いし、ゲームやってればあの幻想的なビジュアルの記憶が描写や想像力を補ってくれるのもプラスでした。

 小説でありつつ、ゲームの流れをかなり忠実にトレースしてるのも不思議な感覚でしたね。これもゲームをやった人だけ分かるやつなんですけど、「力を貸そう」とか「上へ行けます」とかの定型ボイスが要所要所でそのまんま出てくるんですよ……。バトルシーンにしても、ゲームのアクションをいちいちなぞってきて、下手するとチュートリアルまで再現してくる。ていうかテキストに余裕あるからって、ゲーム本編になかったチュートリアル台詞まで追加されてたような? 「アブソリュートガード」とかいう露骨にアクションゲームっぽい用語も頻出するし、そもそもゲーム中だと「ジャストガード」だったと思うんですけど……。ゲームのボス戦で武器がポップアップしてくるのとか深く考えずにそういうシステムだと思ってたけど、細かい説明がつけられてしまったせいで「敵、アホなのでは?」って気持ちになったりとか、とにかくツッコミどころも健在で「らしい」感じでした。

 ゲームがエンディングを迎え、予算の都合かなんかで省略されたであろう真のラスボスとの戦いまで終わった段階まで進んでも、書籍としての進度は75%。その先の後日談……というには色々ありすぎる新章の展開がなかなか凄くて、神話構想というシリーズ名に恥じない壮大なスケールの物語に帰着していました。まあルシフェル堕天するんやろうな……くらいのことは想像がついてて、場合によってはカタストロフ的なことが起きても不思議ではありませんでしたが、ちょっとそれどころではない感じでしたね。

 後日談部分でイーノックは2回の大きな選択をするのですが、正直2回ともその決断は「え、そこでそうなるの!?」と唐突に感じるものでした。でも神話という括りだと、そのどこか遠い距離感が必ずしもマイナスにはならないんですよね。話が遥か遠くにすっ飛んでいくので、ゲームで展開された物語は一体何だったの……という気持ちになるやつでもありますが、既に決着したはずの物語が別の巨大な物語の奔流で押し流される光景もまた神話的にはポイントが高いので、私にはアリでした。人間として置き去りにされたイシュタールは可哀想すぎましたが……。

 最後まで読んでみるとゲーム本編の補完程度の内容ではなく、実質的な完結編、あるいは今後の神話構想シリーズ展開を見据えた布石みたいな作品でした。RPGの『ザ・ロストチャイルド』に続いていく流れでもあるので、そちらをやってる人ならこの小説版も買いかなと思います。シリーズとしては漫画や小説が他にもちょろちょろ出てるみたいなので、また気が向いたら行ってみてもいいかもしれません。気が向いたら……。