『まだ殺してやらない』

まだ殺してやらない (講談社ノベルス ア AF-01)

 アンバランスーな小説。冒頭で二転三転する状況に圧倒されて、スピード感あるなーと思ったのが第一印象。ところが第二章に入ると展開は急にゆっくりになります。その後も急展開はあるんですけど、そこから一気に加速するのかと思ったらそのまままた同じような密度で物語が続いたりして、ちょっとスピード感覚がぐにゃぐにゃしてる印象でありました。

 かなり、動機というものが重視された作品です。だからこの作品のミステリーとしての性質は、読者に対する"説得力"が大きく関わってきます。そこのところで、作者さんの苦心の跡が見受けられました。どうしても説明が多くなってしまい、そういうところで急展開の直後に長い独白が始まったりのアンバランスが現れてしまったんだと思います。

 ただ対象として描かれている動機そのものはなかなか面白いもので、どうして今まで同じものを書いた人がいなかった(?)んだろうと不思議に思ってしまうくらいでした。その考え方に理解を示すことで読者のちょっとした特別意識が満たされる……みたいな、なんだか反応のしたくなるオチではあったと思います。