『月光条例(2)〜(6)』

 月の光に打たれ、おとぎ話の登場人物が物語に逆らって暴れ出す童話異本物語。2巻から6巻まで一気に読んだので、感想も一気に書きます。

月光条例 2 (少年サンデーコミックス)

 一話で完結する読み切り短編と、数話連続して描かれる中編ストーリーが交互に続く展開。読み切り短編では、アイデアや勢い・ダイナミックな作劇を全面に押し出したキレのある展開を。連続中編では、各回の登場人物の心理に迫る、テーマ主体の人物描写を。作品の構成に合わせて作品の照準をショートレンジ/ミドルレンジと描き分ける、なかなか面白い作劇になっています。


月光条例 4 (少年サンデーコミックス)

 特に多くの短編が集まっているのがこの4巻。「ピノキオ」や「ヘンゼルとグレーテル」などはラストのオチが面白く、アイデアストーリーっぽいところがあります。一方の「わらしべ長者」は一話という短いページ数の間で展開が二転三転する、作劇のキレが楽しい作品。表現手段としての漫画の面白さが、縦横無尽に振るわれているという気がします。


月光条例 6 (少年サンデーコミックス)
 中編の場合、モチーフとなる各童話登場人物の隠された心理が謎仕掛けになっていて、戦いの中でこれを解きほぐしていくのが基本的なストーリーラインになっています。王子様を待つだけの受け身なシンデレラ童話に対して「自分で考えてやりたいことをやれ!」という感じに説教してみたり、"御伽噺の納得いかない要素"を作者が自分好みに書き換えていく作品でもあります。二次創作には「原作に敬意を払え」みたいな模範がありますけれど、あえてそれを破るところから生じる面白さもやっぱりあるんですよね。

 おとぎ話はそれ単体で物語が完結していて、大団円の中に収まっています。けれど上に挙げたシンデレラの受け身の姿勢をはじめ、読者として納得のいかない要素が残るのも自然なことでしょう。物語の枷を外して暴れ回る「月打」された登場人物たちはそういった不満を体現した存在になるわけで、ここに異本としての面白さが出てきます。「月打」という作品の基本構造が最高に活かされていて、実にうまくできてるなあと思います。

月光条例 3 (少年サンデーコミックス) 月光条例 5 (少年サンデーコミックス)