『花園のエミリー 鉄球姫エミリー第三幕』

花園のエミリー―鉄球姫エミリー〈第3幕〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)

 今回はクライマックスにおける主人公の周りでの大きな戦闘自体がなく、人間劇中心のますます大人しい展開になってきました。ただし、むしろ「政治」の面でお話は大きく進展していて、物語が動き出したなという感触があります。権謀術数、というところまではまだ描かれていませんけれど、わりとまっとうに架空戦記の文脈に移行していて、期待の持てる展開だと思います。

 自然と人間描写中心の展開になってきますけれど、キャラクター小説的な印象はあまりありません。作者の趣味全開で描かれる変態的な下ネタ(←)を除けば、必要な言葉が堅実に綴られていっているという感じ。ちゃんと、描写の積み重ねで人物が描かれていると思います。

 過去の作品で死んだ人たちが後々まで影響を与えていて、好感が持てます。死ぬときはあっさりすぎるくらいあっさり死んでしまった彼らですけれど、後々まで使い捨てられることなく語り続けられている。そういったところに、自分の創り出したキャラクターに対する八薙さんの姿勢を感じることができると思います。

 ……というくらいのことを書いてすっとぼけようかと思ったんですけれど、やっぱりラストのアレに言及しないわけにはいきませんね、はい。

 そこまでやるか、と思いました。強烈なヒキでしたけど、その出来事が今後の作品展開を根本から大きくねじ曲げてしまうことを考えれば、読者の気を引くために取って付けただけものでないことは明らかです。そういった悪趣味とか残酷趣味とは一線を画して、やはり容赦のない人だなあと思いました。