『いりす症候群!』 - 眠れない夜のデスクトップの友

『愛と勇気とかしわもち』『魔王物語物語』などの作品で人気を博し、フリーゲーム界の新鋭として台頭してきてる感のあるカタテマの最新作。物理エンジン空間に落下してくる物体を下方から射撃して軌道を制御し、同色にぶつけて消していくというある意味シューティングなパズルゲームです。

 物理エンジン搭載ということで『愛と勇気とかしわもち』とは勝手が随分違いますが、やはりやり応えのある作品です。一回のプレイはそう長くもかからないのでデスクトップに置いてちょこちょこプレイするのにぴったりなんですが、そのお手軽さを甘く見てるとたちまち夜が更けていくことでしょう。

 ご褒美ストーリーを見るために必要な条件点数が決められてるんですけど、この設定が絶妙だと思います。ちょっとプレイに慣れてきた頃合いで越えられるか越えられないか、なんとも微妙なところに置かれているのが第一目標の1万点です。これはコツさえ掴めば割合楽にクリアできるので、軽いジャブといった感じ。でもその次に聳える5万点という壁が実に憎たらしくて、これは流石にちょっと厳しいんじゃないか、でも頑張れば越えられるんじゃないか……と期待の持てるぎりぎりのところなのです。

『愛と勇気とかしわもち』もそうでしたけど、いちプレイずつを見ればある程度運の采配に任せるところのあるゲームだとは思います。引きの調子のいいときと悪いときで、倍以上の点数差くらいは出てしまうかもしれません。でも、だから「運ゲーだ」と簡単には言えないところがあって、この点数のばらつき具合まで含めて全体でバランスが取られているという気がするのです。

 5万点という目標の内の3万点は実力で、残り2万点は運に左右される、とそんな感じに調整されているゲームなのかもしれません。3万点の実力をフルに発揮し、さらに2万点分のアタリを引いたとき、そこではじめて目標が達成できる。そういうばらつきがあるから、「次こそは」という心持ちで諦めず何度も繰り返しプレイできるという部分が実際にありました。そういう繰り返しの中で「実力」も磨かれていきますし、平均点の上昇という形でそれはたしかに実感できます。

 結局何日か夜遅くまで頑張って、目標の5万点は達成することができました。一気に遊んでわりと燃え尽きた感じだったので、まあこれで一段落……と安心したところで、なんか最新版だと10万点でまた何かあるという風の噂を聞いてひいいいと頭を抱えました。このゲームのアイコンは当分デスクトップに居座り続けそうです。

表現とか

 あと表現とか。『愛と勇気とかしわもち』やってる人には想像がつくでしょう、今回も実にすてきなお話しで、友達に勧めてはプレイしてるのを横で眺めてにやにや微笑めるという心温まる作品です。『愛と勇気とかしわもち』はある意味奇襲みたいなもので内容はシンプルでしたけど、今回はプレイヤーも「分かってる」のでお話自体がかなり練られています。その表現方法まで含めて、見応えのあるものだと思います。

 エンディングなどは本当にはじめて見たような演出でおったまげますしたし、他にも****の中身とか独特な表現が多々見られます。基本的に意表を突いてくるというか、プレイヤーが安心している死角をこそ狙って配置してくれる仕掛けが多くて面白いです。いくら目を凝らして待ち人を探していても、いえむしろ目の前に集中していればしているほど、予想外の方向から相手がやって来たときの驚きは増すでしょう。

 個人的には「非*****」とか呼ばれている演出が実に憎いと思いました。あれ、再現性がないというところがポイントで、こういう抑制を利かせた表現はとても貴重だと思います。特に本作の場合はもともとの性質がアレなわけですから、一回だけふっと出てきて二度と現れない、え? バグ? 気のせい? それともまさかいやそんなとか無駄に混乱できてたいそう愉快でありました(←)。 カタテマの人の作るゲームのこういったところが、私はたいそう好みです。