物語不在な小説の実現例 - アーサー・C・クラーク『宇宙のランデヴー』

宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))

 SF! もう頭に"THE"をつけてもいいくらいの、まさにSFそのものなご本でした。この作品は正しくまるまる、知的好奇心の塊です。

 外宇宙より飛来した巨大な「被創造物」ラーマの謎を探る。本作の概要を説明するなら、本当にそれだけでかたがついてしまいます。ラーマという謎の物体に関して様々な発見はありますし、障害を乗り越えるための探検者たちの知恵を絞った冒険も描かれます。でもストーリーラインを、「物語」を動かすようなイベントが、本作にはほとんどないと言っていいと思います。

 そりゃラーマに挑戦する探検者たちが行って帰ってくるくらいのことはします。でも、それを通して彼らの人間的成長やら何やらがどれだけ描かれているかというと怪しいもの。「ラーマすごい」って衝撃を受けて戻ってくるだけなんですから。むしろそういった「人間大の物語」という文脈が、眼前の光景の圧倒的スケールによって無化されてしまう、本作ではそういう様子が描かれているようにすら思えます。

 もちろん、そういった物語の不在に関わらず、この作品は傑作です。この作品の面白さは、とても興味深い教科書や論文や図鑑を読んでいるときの感情に似たものであるかもしれません。物語がなくても魅力ある小説は成立しうるのではないか? という問いかけに答える、見本のような作品であると思います。