白石晃士『カルト』『オカルト』

 遂に白石ホラーをキメてしまった……。私の観測方面のTwitterで大人気だったので前々から気になってた『カルト』を観てみたらメチャクチャ面白かったので、続けて同監督の作品『オカルト』を観たらまたまたメチャクチャ面白かった、という塩梅です。こういう、バカホラー映画って言うんですかね、ちょっとジャンルそのものを認識していなかったのですが、いざ触れてみるとすっごい肌に合いました。ただそもそもホラーが苦手なのと映像酔いに弱いのとで、けっこうな苦しみながらの視聴でもありましたが……怖さと酔いを押してでも、白石監督の作品をもっと観ていきたいとう気持ちです。

『カルト』

カルト [DVD]

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 芸能人を実名役で出演させつつ怪奇現象を実録で追いかけていくモキュメンタリーなんですが、あまりにも嘘くさい霊能者、本当にこんな映像撮れてたら大騒ぎだしそもそも安CGなので明らかに嘘っぽい心霊映像など、大嘘を大真面目な記録映像として残していくノリをゲラゲラ笑いながら観てました。完全に与太なんですが、フィクション的なスマートさやリアリティから外れた「うさんくささ」ががあるからこそ、逆に「現実だといかにもこんな感じになりそう」とも思える霊能力者や不合理な心霊現象がなかなか面白かったです。そうやって「うさんくさい、ちょっと現実的なしょっぱさすら感じる」雰囲気を作り上げた上で、さらにもう一度、完全にフィクション世界の住人である霊能者ネオを突っ込んでくるこの展開……。うーん与太、という感じで大変よいものでした。

『オカルト』

オカルト [DVD]

オカルト [DVD]

 通り魔殺人事件とその被害者の神秘体験を追うモキュメンタリー。通り魔事件というのがそもそも架空のものだし、大事なところでクトゥルフネタが出てくるなどフィクションであることは明らかなのですが、やっぱり実録ものとして本当にそれっぽく撮られているのが面白い。取材対象の江野くんがあまりにも「本当にいそうなぱっとしない人」なのが生々しくて生々しくて、言動は完全にヤバい人なのにどんどん親近感が湧いてしまいました。
 これも基本的にバカホラーとして楽しめるものだと思うのですが、私はけっこう江野くんに当てられてしまったというか、ホラー的にもちょっと参ってしまいました。露骨な嘘っぱちのものとして作られているのが分かってるからこそ「怖くても所詮フィクションでしょ」という言い訳が利かないというか、作り物の中に一抹の事実が含まれてたみたいな穴がありそうなので怖い。下僕もお風呂やトイレを怖がるようになって「ある日いきなり頭の中に声が聞こえたら怖くないです?」とか言い出すし(それは私の声です)、なんかよく分かりませんが、我々こんなことで『コワすぎ!』観られるのかと不安になりましたね(でも絶対面白いので観ます)。

『ヒュレーの海』

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA)

 新発見の粒子的なやつでVR技術がめちゃくちゃ発達して現実そのものが物理層と論理層で構成されたネットワークみたいになってる未来、なんかのバグで情報強度が拡散して溢れた混沌の海に呑まれた地球圏は7体の超高度AIを核とする7つの国家によって再統合され、古代に打ち捨てられて堆積した巨大ソースコード遺産みたいになってるVR集合的無意識オーバーテクノロジーリバースエンジニアリングの対象となり、今日もなんか使えそうなデータがギルドによってサルベージされている……的な、以上の説明は作中の設定をだいぶ逸脱してイメージで固めた雑なやつですが、つまりなんかそういうイメージのやつです。

 現実と異なる技術体系を描き出すための根本的な土台として未知の粒子の存在を仮定しつつ、現代の情報技術あたりを中心としたアナロジーで世界設定を細かく構築しているタイプのSF作品、と私には読めました(分かるところだけ分かる状態で読んだからそういう理解になっただけで、ちゃんと読めばもっと色々あったりするのかもしれません)。その辺の分野の人にとっては比較的イメージしやすい世界設定で、ルビも割と素直に振ってあるなという感想だったのですが、前知識がなければ造語が乱舞する情報過多で衒学的な作品というふうに映るでしょう。前知識の有無で作品の性質は変わってきますが、根本的な面白さがどっちが上かはお好みによると思います。

 初出はなろう小説ということで広い意味のライトノベル的な文脈にも添っていて、徳間デュアル文庫あたりから出てそう感を醸してて嬉しさがあります。後半は世界の根源的なやつにアクセスして超常事象を発生させるタイプの能力バトルに比重が移り、SF的にはそこをどう解析して実装の穴をくぐり相手の裏をかいていくかという内容になるのですが、あんまり形而上的な話には行かず勝つか負けるかという単純な筋に落ち着くは良し悪しでしょうか。欲を言うと、最後の方でもう少し派手なSF的カタストロフなり大変革なりあってもよかったと思いますが、そこはないものねだりでしょうね。

碓井ツカサ/円居挽『オーク探偵オーロック(1)』

 もうタイトルと表紙が完全に作品のコンセプトを説明してるんですが、オークがシャーロック・ホームズをやるやつです。オビでも本編中でも元ネタの探偵の名前が伏せ字になってたので「これはホームズと思わせといて何とでもひっくり返せるやつやな!」とか思ってたけど、後書きっぽいもので思いっきりホームズ言及してたのでまあホームズでしょう(後書きっぽいものを信用しないこともできるぞ)。

 19世紀ロンドンの謎にオークの筋肉で挑む、とあってバトルの比率が大きいんですけど、いわゆる脳筋キャラではなく頭の方も名探偵相応にキレるというキャラ付けなので、探偵もののお約束にメタを張ってるという感じは意外と少ないです。あと姫騎士文脈も特にないので「くっ殺」とか言う人はいません(表紙の女の子はワトソンポジションです。可愛い)。

 能力推理ものとしては、オーロックの能力が「自分の推理が正解になるよう現実の方を改竄する」っていうオーク探偵とかの与太設定が吹き飛ぶくらい強力なやつで、しかもそれをかなり安直に使ったりしてたのでびっくりしたんですが、まあ円居先生のやることなので、ここからの話の持って行き方が楽しみですね。推理との辻褄が合うところまで現実を改竄し続けるタイプの能力っぽいので、探偵自身にも影響が制御しきれず、かえって悪い結果を招きかねないとかそういう趣向はあるようです。

 謎の日本武術やチベットに縁のあるホームズが元ネタだからということなのか、かなりの頻度で東洋武術への言及とかあるんですけど、これ半分以上円居先生の趣味だったりしませんかね……? あと最後の方で新宿のアサシンみたいなのが出てきましたね?(新宿のアサシンではないと思う)

『妄想代理人』

  • 最近観た変なアニメ。
  • 今さんの映画は何本が観たことがあったので前々から興味は興味はあったのですが、機会ができたので遂に視聴。
  • ブギーポップ・ファントムとかlainとかのオムニバス連作短編っぽいダウナーなアニメが結構好きなのですが、本作も同じような感覚で楽しめました。
  • OPだけはよく目にする機会があるので知ってましたけど、気持ち悪くて良いですね(でも本編中で平沢進さんっぽい曲が流れるだけで思わず笑ってしまうのは視聴態度としてよくない……)。
  • ガサラキの西田先生並みに目が据わってガンギマリしてる猪狩刑事の妻とレーダーマンが好き。
  • 現代風刺っぽいところがありつつも、ありがちな「現代人の心の闇」みたいな言説を真に受けてる感じでもないのが好ましいですね。
  • 少年犯罪の凶悪化とかの報道は当時既に散々されてましたが(定番過ぎて当時でも時代遅れなくらい?)、データを見ると少年犯罪が増えてるなんて事実は全くないわけで、にも関わらず「増える少年犯罪、現実と虚構の混同、現代人の心の闇……」みたいなイメージを前提にしたきな臭い雰囲気そのものは現に食傷するくらいメディアから発信されていた。いったい現実と虚構を混同しているのは誰なのかっていう話なんですが、存在そのものが集団妄想みたいな少年バットは、なんかそのへん面白い。
  • まあでもこういう方向の感想を掘り下げても雑な社会反映論一直線なので、あんまり言わぬが華でしょう。
  • あとラストで「戦後に戻ったみたいだ……」みたいなセリフを懐古趣味の猪狩刑事に言わせておいて速攻で復興させる趣味の悪さ好きです。

『岳飛伝(一)』

岳飛伝 1 三霊の章 (集英社文庫)

 長かった文庫化待ち……。また数年空いちゃったので詳しく覚えていない登場人物も多いんですが、文章があまりにも肌に合うので立ち止まることもなくすらすら読めてしまいました。「これで死ぬような奴ならそこまでだ」みたいなシーンがバンバン出てくるマッチョな小説、本来なら苦手な部類のはずなんですが、これだけ長く付き合ってきた作品だと嫌でも愛着が湧くし、このシリーズに合うよう自分から寄せていったところもあります。人間に圧をかけて人間性を搾り出すのは楽しいぞ〜(最悪)。

 北宋を舞台としていた原作水滸伝の時代からもずいぶん時は経ち、いまや中華は金と南宋の時代に至りました。梁山泊が倒そうとしていた宋は金によって南に追いやられ、遼や蒙古、奥州藤原氏までもが話に絡んできて、もはや原作の枠からは完全に逸脱しています。『水滸伝』の頃は梁山泊の志の中心であった「戴天行道」の旗も、今では何か人を縛る枷のように語られていて隔世の感。一度は梁山泊に名を連ねながら、そこを離れる者もおり、そもそもタイトルからし梁山泊と敵対する岳飛の名を冠しています。水滸伝とか梁山泊という枠すら解体して、このシリーズを一人一人の物語に返していこうというのが、このタイトルなのかもしれません。

 もう一〇八星のうちの多くが死んでしまいましたが、「死にそびれた」「長く生きすぎた」と思いながら生き延びている人もいます。三十巻以上付き合って思い入れ深くなった彼らが自分の人生にどんな決着をつけるのか、このシリーズが完結するまでのこれから一年ちょっとが楽しみです。

キャラ紹介

 めっちゃ今さらなのですが、実はこの魔王城も最近人が増えてきています。日記と言いつつあんまり私事? について書くことがなかったので言いそびれていたのですが、今年はここの更新頻度も上げていく予定ですし、折に触れて同居人たちに言及する機会も増えるかと思うので、そのへん軽くご紹介しときたいと思います。

魔王(@varelico)

  • 私です。
  • 10年前からバーチャルネット魔王14歳とか名乗っているのですが、名乗り始めた当時ですらバーチャルネットアイドル文化なんてもうだいぶ下火だったので、今や完全に文化遺産扱いだし「魔王14歳です」とか名乗っても「は?」って返ってきたりするので傷つきますね。
  • キュトスの71姉妹の14女という裏の顔があります。こういうことがシラフで言えるのは長生きしてるアカウントの特権ですね(そうでもない)。14歳ですけど。
  • 「昔使っていた痛いハンドルネーム」が黒歴史文脈で語られる光景ってちらほら見かけるんですが、ずっと同じ名前を使い続けている私に隙はなかったし自分の名前に対する感性が完全に摩耗してしまいましたね。

下僕(@timetide)

  • 「からすとうさぎ」とかいう変な名前の私の下界活動用端末です。電波で操っています。
  • 労働、外交、社会などが苦手ですが、魔王城には日本戸籍を持つ人材が他にあんまいないので、労働、外交、社会などをやらせています。かわいそう。
  • 実地イベントやオフ会などでは私の代行として派遣することが多いです。動作性が低くもたついていることが多いかと思いますが、皆さまご寛恕お願いします。
  • これの読書メーターと私の感想の内容がよくかぶってたりするような気がしますが気のせいです。あと朝方の寝ぼけている時間などよく電波が混線するのでtwitterの発言とかが混じってたりすることありますが、こてもきっと気のせいですね。追求するな。

おもち(@mochimochimanju)

  • もちむら萬寿氏、下僕の妻上です。
  • 一昨年くらいに下僕が配を約せし者を連れてくるとか言い出したときは正気を疑いましたが、彼女はなんと日本戸籍を持って実在し、しかも徳と文化の高いおもちでした。
  • ちょっと前まで全然そんな話聞いてなかったのに天がステ振りを間違えたボトルネックの落とし子がごとき下僕になぜこんな都合良すぎるやろ何らかの人外邪法に手を出したのか許せんと問い詰めたところ「幻想再帰のアリュージョニスト読んでたらエンカウントした」と返ってきたので「さよか」と思いました(※アリュージョニストを読むと配ができる、一般性のある事象ではありません)。
  • おもちの加入により魔王城の文化レベルは☆1から☆4くらいまで引き上げられました。特に食事レベルが(コンビニ弁当をご馳走と感じる感性がなくなり味覚を得た)。
  • 私や下僕より文化範囲が広く未知のものを推してくれることがよくあるので、本選びや感想などこの日記にも直接的間接的な影響が表れてるんじゃないかなと思ってます。
  • なお協議の結果、下僕は私とおもちの共有使い魔という扱いになりました。

ザリス @xalicetanir

  • 自称食客の居候で世を呪ってばかりいる魔女です。ネットで検索すると彼女にまつわる神話伝承のたぐいがぽつぽつ見つかりますが、あんまりろくな話がなかったような気がしますね。
  • 活動率は低いですがたまにゆらぎの神話の話とかをさせています。働け。

そのほか

  • 魔王城なので魔王の家臣が大勢いるぞ(棒)。
  • 週一くらいでお迎えしてる詩人がおりよくDVDとか観てます。
  • 幻想再帰のアリュージョニストの話をほぼ毎日しており、最新話の更新があると大騒ぎになります。

 FGOとかハイローもそうなんですが、特にここ一年くらいで手を出した作品にはお餅さんからの推しがきっかけになったものが結構ありました。ここに書いてる感想とか、いつもまるで自分の意見みたいに書いてますが、けっこう周りの人の影響受けてるところもあると思います。まるっきり受け売りなこともあるし、その辺何も触れないのも心苦しいなーと思ってたので、一度しっかり書いてみた次第。なお明日から急に顔アイコン付きの会話形式ブログとかになったりはしないのでご安心ください。

感想:アリスインプロジェクト『真説・まなつの銀河に雪のふるほし』

 ちょっと時間が空いてしまいましたが、先々週くらいに観てきました。観劇はあまり経験ないのですが、以前2回観た『アリスインデッドリースクール』が良かったので、アリスインプロジェクト繋がりで観に行ってみた流れ。冷凍睡眠から甦った主人公を除く現生人類が滅んだ地球で、寿命20年のデザイナーズチャイルド、動物とのハイブリッド、AI、情報生命など、「旧人類」と似た姿をした少し違う人たちが地球外の人類と連絡をとるためのロケットの発射を巡ってあれこれする群像劇です。

 SF的なガジェットが沢山登場するのですが、そこの説明に拘らずにさらっと流していくのが、小説中心の人間としては新鮮でした。いちいち説明してたら時間が足りないのもあるでしょうけど、ロボットの人工知性が当たり前のように「個性」を尊重して奇矯な行動をしたり、滅びかけた肉体を捨てて情報の海で生きていくかどうかの選択を善し悪しでなく当人の「感じ方」の選択として当たり前のように処理したり、説明をしないことによって結果的に「当たり前」として扱われてていく諸々がなんか良いな、と思いました。

 群像劇の中で役者さんの演技を観る、という感覚がまだ上手く掴めていないので、ちょっと話の筋を追うことに注意が向きすぎたかもしれません。もう一度観ればもっと役者さんの演技に注目できると思うのですけど、公演期間が5日間と短く、よほどコアな人でないと何度も観に行くのは難しいので、「演劇の見方」というものをもっと身につけた方がいいのかもしれませんね。