『岳飛伝(一)』

岳飛伝 1 三霊の章 (集英社文庫)

 長かった文庫化待ち……。また数年空いちゃったので詳しく覚えていない登場人物も多いんですが、文章があまりにも肌に合うので立ち止まることもなくすらすら読めてしまいました。「これで死ぬような奴ならそこまでだ」みたいなシーンがバンバン出てくるマッチョな小説、本来なら苦手な部類のはずなんですが、これだけ長く付き合ってきた作品だと嫌でも愛着が湧くし、このシリーズに合うよう自分から寄せていったところもあります。人間に圧をかけて人間性を搾り出すのは楽しいぞ〜(最悪)。

 北宋を舞台としていた原作水滸伝の時代からもずいぶん時は経ち、いまや中華は金と南宋の時代に至りました。梁山泊が倒そうとしていた宋は金によって南に追いやられ、遼や蒙古、奥州藤原氏までもが話に絡んできて、もはや原作の枠からは完全に逸脱しています。『水滸伝』の頃は梁山泊の志の中心であった「戴天行道」の旗も、今では何か人を縛る枷のように語られていて隔世の感。一度は梁山泊に名を連ねながら、そこを離れる者もおり、そもそもタイトルからし梁山泊と敵対する岳飛の名を冠しています。水滸伝とか梁山泊という枠すら解体して、このシリーズを一人一人の物語に返していこうというのが、このタイトルなのかもしれません。

 もう一〇八星のうちの多くが死んでしまいましたが、「死にそびれた」「長く生きすぎた」と思いながら生き延びている人もいます。三十巻以上付き合って思い入れ深くなった彼らが自分の人生にどんな決着をつけるのか、このシリーズが完結するまでのこれから一年ちょっとが楽しみです。