『岳飛伝(四)』

岳飛伝 4 日暈の章 (集英社文庫)

 金と南宋が本格的にぶつかりはじめて、本当に『岳飛伝』という感じになってきました。このシリーズになってから出てきた新キャラ・孟遷もすっかり岳家軍の要の一人という感じになっていて、この面子の中に牛坤と姚平がいないのは寂しいなという気持ちになります。岳飛陣営を盛り上げる良いコンビだったあの二人、いよいよ岳飛が話の中心になってくる岳飛伝を前にどうして退場しちゃったのかなと思いますが、ああいう「これから」という連中があっさり死んじゃうのがこのシリーズですもんね……。

 李英・李媛の兄妹なんかも今回触れられていましたが、どうにも恵まれないまま死んでしまって、しかも死ねばそこまでというキャラクターが多くなってしまうのは、どんどん人が出てきて死んでいくこういう群像大河小説では仕方のないことです。それでも、こうやって死んだ人たちの名前がたまにでも挙がり、遺した業績や思い出話が語られるというのは、何だか救われるものがありますね。

 それにしても、これまでに死んだ人々にまつわるキーワードが各話の章題になってたり、水滸伝の頃は絶対的だった「志」が時を経て何だかよく分からない曖昧な概念に変化していくのと対比して語られるもう一つの概念が「夢」だったりするの、「か、感情〜〜」ってなります……。打倒宋という目的に向けて屍の山を築きながらも痛快に突き進んでいた『水滸伝』の頃とはもうかなり作品の趣も変わってきたと思うのですが、五十巻におよぶ大長編の中で培われてきた様々なものの積み重ねには、何か言い知れない巨大な感情を覚えずにはいられません。これだけのサイズの物語には自分の人生の中でそういくつも触れられないだろうと考えると、ほんと贅沢な経験ですね……。