『モモ』

モモ (岩波少年文庫(127))
「時間どろぼうとの闘い」というSFメルヘンファンタジー的なストーリーラインと、「時間を気にしすぎて心の余裕をなくした社会への警鐘」というテーマ。時間どろぼう絡みの設定は一風変わっていて、時間ものやジョジョネタが氾濫する現在の読者から見てもとても新鮮なものに映ると思います。時間を止めたり巻き戻したりというのはよくありますけど、時間を定量化して盗んじゃうという発想にはこれまでお目にかかったことがありませんでした。
効率化社会に対する攻撃がちょっと偏執的過ぎて、お話に集中しきれなかったのは残念でした。たとえそれ自体は正しい主張であったとしても、その考えを無理に押し通そうとすれば他にも無数にあるはずの別の正しい考え方まで否定してしまいかねない気がします。このあたり、いろいろな周辺環境が単純化された寓話を扱う際の難しいところなのかもしれません。それにしても、この時代に近代化社会への不安があったのは分かりますけど、機械仕掛けの玩具を指して「ほんとうの遊びはできないもの」と呼ぶのはさすがに嫌らし過ぎるんじゃないかと思います。